経営に関する支援とまとめ | 情シスのお仕事(2019年度改訂版)

経営に関する支援とまとめ | 情シスのお仕事(2019年度改訂版)





対象とする読者

・情シスが何をやっているか気になる人
・情シスに転職を考えているSE
・他社の情シスが何をやっているか気になっている情シス
話の要点
・システム導入や業務プロセス変更におけるプロジェクトマネージャーである。
・IT・デジタル導入は事業計画とリンクしていないと効果や価値は認められない
・情シスのスコープは広い、だからこそやりがいがある

今回の「情シスのお仕事」は経営に関する支援と全体を通したまとめをお話します。
改めて「情シスのお仕事」で取り上げる弊社情シスの業務範囲を貼っておきます。

多くのユーザー企業にとってITやデジタルは本業ではなく、経営を効率化したり新たなビジネス展開へのトリガーとなって経営を「支援」するためのものです。
そういう意味では上記の1~14は全て「経営に関する支援」と言うことができます。
今回のテーマをより正しく書くと「経営層からの指示への対応」です。
そう書くとあまりに直球すぎるし、やらされ感が強くなるのであえて柔らかい表現にしました。

また最後にこれまで取り上げたテーマを総括して、情シスのお仕事は結局何なのかをまとめたいと思います。

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経営に関する支援について

経営層の指示を実現するためのプロジェクトビルド

業務改善やシステム導入について、トップダウンで指示が降りることも当然あります。
そういった場合情シスの立ち回りはプロジェクトマネージャーです。

経営層からの指示(=経営層のやりたいこと)と、実態(=実際にやらなければいけないこと)には差異があります。以下に指示と実態の差異を例示します。黒い文字が指示、灰色の文字が実態です。

・基幹システム更新のために経営視点/現場視点両面で現状の課題と目指すべき姿を整理してRFIを作成(するための会議体の設置、社内検討体制の構築、現場ヒアリングを行い、要件を言語化する。作成したRFIはベンダーへ送付するのと同時に、システム導入の目的、目指す姿を社内に周知・浸透させるために説明の機会を設け社内へ展開)する。
・経営判断を行うために数値・資料をダッシュボード化(するために各システムのデータを集約基盤を整備する。さらに各部門(部課レベル)での利活用が行えるよう、環境整備と教育の計画を作成)する。
・デジタルマーケティングの個々の施策やシステム・外部ステークホルダーの整合を取るための全体像を整備(する。ベンダーに作業スコープを説明するのと同時に、社内にデジタルマーケティングの全体像を浸透させるために情報を展開)する。

経営層が実態のところまで事細かに指示することはあまりありません。

このプロジェクトが社内外の誰をステークホルダーとし、どこまでのスコープで、どういうメンバーでチームを構成すべきか。プロジェクトのビジネスベネフィットとリスクは何で、どのようなワーク&スケジュールで完遂させるのか。
これらを押さえた素案を作成して「こういうイメージで合っていますか?」を確認するのがプロジェクトマネージャーの最初の仕事です。

※上記の単語については「プロジェクト管理手法について」という記事内にて紹介している「PM7key」を参照ください。

その他諸々の保守と問合せ」の中でも何度も出てきた「要件の言語化」というのとも違う、「行間を読む」ほど感覚的なものではない、「要件を具体的に実行できる計画に落とし込む」ことがプロジェクト計画の第一歩です。

システム導入・業務プロセス変更の旗振り・調整役

システム導入は業務プロセスを変えることである

システム導入の真の目的は、「システムを使うこと」でも「今の業務を楽にすること」でもありません。SaaS利用であれば、以下2つのメリットを享受するために業務プロセスをノンカスタマイズのシステム標準にあわせて変更することが目的です。


SaaSによるシステム導入のメリット

<1.属人化による非効率の解消>
今の業務のやり方をシステムが推奨するベストプラクティスに切り替えることで、担当者しか知らない手順を無くしシステムのマニュアルを見れば誰でもできる手順にする。業務がブラックボックスすることを防ぎ、人材の流動性と事業の継続性を確保する。
誰でもできるから配置転換もできるし、急に辞めても後任者がすぐに業務を行える。
専属のオペレーターや常駐SEがいる場合は、それを辞めることができる。
<2.バージョンアップや保守管理に係るコストの解消>
独自業務のためのカスタマイズを行わずパッケージを常に最新状態にバージョンアップして使えるようにすることで、改修やメンテナンス等に係る不要なコストを削減する。
従来のシステムでは、本来費用を掛けて新しい機能や業務範囲を取り込みたいのに、OSやブラウザのバージョンアップ・機器更新・法改正対応等、新たな付加価値を産み出さない改修に費用が取られていたし、独自カスタマイズがあるので標準パッチがあてられずそこでも費用が発生していた。SaaSで自動バージョンアップが行われればこうした費用を新たな方向に振り向けることができる。

全てのシステムをパッケージ標準で使うことを推奨しているわけではありません。
他社との差別化を図るべきコア業務については手を加えることも必要でしょう。

しかし「売上の予実を管理する」「納品・在庫・出荷を管理する」等の業務を他社と差別化する必要があるでしょうか。むしろこれらの業務はシステムに合わせて標準化してしまい、売上を増やす施策に労力を振り向けるべきでしょう。

…ということを社内に説き続けることがプロジェクトマネージャーの仕事です。
トップダウンの場合経営層からも発信してもらえますが、現場の責任者がそれを目指さないとチームは目標を見失い誰も着いてこなくなります。

業務を実際に行うのは現場の担当者であり情シスではありません。
だからこそ現場の担当者が腹落ちするまでこの目的を説き続ける必要があるのです。

極端な話、そこを納得させることができればこのプロジェクトは7割くらい成功します。

あとの3割はベンダーコントロールです。
スケジュール、スコープ、品質を中心にチェックしていけば、よほどダメなベンダーでない限り、あるいはこちらの要件定義がよほどテキトーで無い限り、プロジェクトは簡単にはコケないと思います。

KPI設定とトレース

システムの導入はユーザーとベンダーの共同作業ですが、システムの利活用や効果の追究はユーザー側の責です。

「新しく導入したシステムが役に立たない」という声が現場から上がるのは本当にシステムが使えないからだけではありません。使い方を教えていない、そして使うことによって達成すべきゴールを伝えていないからでしょう。

そんなことを伝えなくても誰もが直感的に使えて業務が楽になり、経営層も自分たちがほしい情報を素早く正確に取得できる、そんなシステムがあれば言うことは無いかもしれません。
しかしそのシステムの目的は何でしょうか。何を達成させたいシステムなのでしょうか。
重要経営指標=KPIを設定し、何がどうなることを目指したシステムなのかを明らかにすることは要件定義時から考える必要があります。

システムが稼働した途端にKPIが達成されるわけではありません。
業務プロセスの変更を言葉で言うのは簡単ですが、企業にとっては大手術です。
これまで繋がっていた血管を切り、別の血管に繋ぎ変えるようなものです。
変更する業務が経営の核心に近ければ近いほど血管は太く、血液の量は多くなります。
業務を動かしているのは人間ですから、やり方を変えた途端から上手く扱えるわけがありません。
システムを稼働させた当初は計画通りに血流が流れなかったり、場合によっては出血することもあるかもしれません。

出血を食い止めながら手当を施し、なんとか新しい業務プロセスが定着した頃にはじめてKPIは達成されます。もちろん切り替えの期間は短いほど良いわけで、そのためには周到な準備と前述のような担当者の腹落ちが欠かせません。担当者を腹落ちさせて新しい業務プロセスを定着させるのは、ベンダーではなくユーザーの責任なのです。

設定したKPIの値をどうやって計測するか、トレースしていく方法も同時に準備しておく必要があります。これらが行き当たりばったりではシステム導入の効果は正しく測定できません。
「システム導入により作業時間を〇〇時間削減」というKPIだとすれば、その〇〇時間をどのように計測するか考えなければいけません。導入前後の数字を比較する必要がありますし、そもそも時間の計測自体が大きな負荷になるような方法は取るべきではありません。

何より「削減した時間はどうなったのか」が一番重要なはずです。
残業時間が減ったのか、他の業務にリソースを振り向けることができたのか、その時間は何時間なのか。

効果の数値なんか作ろうと思えばどのようにでも作れてしまいます。
数値に踊らされないためには、結局「このシステムは何のために導入するのか」を固めるしかないのです。

ROI精査と予算作成

何を以て「費用対効果」とするか

システムの効果を測定する一つの基準がROI、日本語では「費用対効果」が最も近い言葉でしょうか。
「システムを導入することで売上が〇〇円上がった」「人件費が〇〇円下がった」のような目に見えるお金の動きだけが費用対効果ではありません。

システムはそれ自体が事業計画の遂行のための一つのリソースであり、システム単独で効果を測れない場合もあります。例えば「SFAを導入したから売上が上がった」のではなく、SFAを軸とした営業手順・管理手順へシフトしたことによって、俗人的な手法や不明確な基準がなくなり効率的・効果的な営業活動を行った結果、受注率を向上させることができるのです。SFAは道具でしかなく、重要なのは「効率的・効果的な営業活動」なのです。
新たな手順に取組んで成果を出した営業の手柄を、全部システムのおかげみたいな言い方をしてはいけません。

企業の中期的な事業計画の達成に寄与できるようにシステムや手順をステップアップすることができれば、それは十分な効果と呼べるのではないでしょうか。

どんな素晴らしいシステムでも陳腐化する(クラウドでも)

オンプレだけでなく、クラウドであってもより良いサービスは日々リリースされます。
クラウドの利点は常に最新の状態にアップデートされることではありますが、コンセプト自体が全く違う新しいサービスが生まれると、追いつくことがどうしてもできない場合もあります。

そういう意味ではシステムはリリースされたその日から陳腐化していくのです。
どんなに苦労して導入したシステムであってもその流れには逆らえません。

IT予算作成≒システム更新計画

ITへの投資はあくまで企業の事業計画とリンクしていなくてはその効果や価値を認められないと言ってもいいでしょう。
事業計画の達成には既存の陳腐化したITリソースで事足りるのか、新たな投資が必要なのか。
それを考えて更新計画を立てることがIT予算の作成なのです。

IT予算作成については「経理のど素人が挑むIT予算作成」という記事で詳しく紹介しています。
事業計画に食い込んだIT予算にするために、情シスはもっと経営に入り込んでいかなければいけないし、そのためには既存システムのお守りをする時間を捨てていかなければいけないのです。

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まとめ:結局「情シスのお仕事」のスコープはどこまでか

今回も含めて11回やってきた「情シスのお仕事」を総括しようと思います。

スコープ タスク
ITコンサル ・システム導入にあたっての課題と目的を分析する
・RFI・RFPを作成し、導入システムを選定する
・導入プロジェクトをコントロールする
経営支援 ・会社としてのIT投資計画を作成し、ROIを測定する
・事業計画遂行に必要なIT資源を検討し、予算化する
IT/デジタルによる業務プロセス改善 ・プロセス変更の目的、目指す姿を共有・周知する
・業務プロセスの変更を現場とやり遂げる
・現場のメリットと経営のメリットを両立させる
DX(データ活用)推進 ・システムに蓄積されているデータを活用可能な形にする
・BI活用にExcel以上のメリットを作りExcelを捨てさせる
・自分たちもデータを読めるようになる
セキュリティ ・「法人が管理すべき情報セキュリティリスクと対策について」参照
インフラ ・効果的なネットワーク・ハードウェアの選定・更新を行う
・パソコンやネットワークの不調の原因を切り分けて対応する
・クラウド移行に必要な知識と技能を習得する
運用保守 ・システム不具合等の問合せ対応を行う
・バックアップやバージョンアップ管理を行う
・ライセンスやサブスクリプションの管理を行う

これらはあくまで私が所属する情シスの事例なので全ての企業に適用されるものではありません。
しかし「ユーザー企業の情シスでベンダーを顎で使う方が楽そうでいいよな」と考えているSEがいるのであれば、これらを自分の責において取り仕切れるか考えてみてください。
コーディングする機会こそほとんどありませんが、情シスはこれらのスコープを、周囲にITやデジタルに精通した人間のほぼいない中でやり遂げていかなければならないのです。
上位者を説得し、現場を味方につけ、ビジネスとして価値あるアウトプットを出し続けなければ、ただのコストセンターとして外注化されて切り捨てられる立場なのです。

私自身これら全てを滞りなくこなせているわけではありません。
しかしやらなければならないタスクとして認識しています。
そこにやりがいを感じることができれば、情シスは楽しい仕事です。
来年も頑張っていきたいと思います!

 

 

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