デジタルシフト(DX)について | 情シスのお仕事(2019年度改訂版)

デジタルシフト(DX)について | 情シスのお仕事(2019年度改訂版)




対象とする読者
・他所の情シスがDXについて何をしているか気になっている情シス
・情シスが何をしているかちょっと興味がある通りすがりの人
・情シスへの転職を考えている人
話の要点
・地方中小メーカーの情シスの担当業務を紹介します。
・今回は情シス以外でもトレンドだし食いつきよさそうだからDXの話をします。
・経営層にDXのイメージがあり、その言語化と具体化に向けた事務局をやっています。
・DXの実現に向けた既存業務プロセスの変更に取り組んでいます。途方もなくSE的な作業です。
・DXは計画はキラキラしてても、実作業は結局泥臭いです。※個人の感想です

「情シスよもやま話」を書き始めたころにも「情シスの業務範囲」みたいな話をしているのですが、それからしばらく時間が経って、自身の関与している業務や立場等が変化してきたことや、今後目指すべき方向みたいなものが出てきたので改訂版を作ってみようと思います。

あくまで1企業の情シスの事例ですので全ての企業に適用されるものではありませんが、「こういう情シスもあるんだ」ということで参考にしていただけると幸いです。守秘義務や身バレ防止のため明確にできない部分もありますが、なるべくリアルな現場の状況をお伝えしていけたらと思います。

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弊社情シスの状況について

企業の分類は「地方の中小メーカー」

企業規模としては従業員が200~300名くらい。営業エリアは半径150km圏内くらいの地方の中小企業です。業種業態はさすがに明確にはできませんが、営業職も技術職も技能職もいるので、分類としてはメーカーとしておきます。

ITリテラシーは部門によってかなりバラツキがありますが、総じていうとそこまで高くはないです。「パソコンのディスクの空き容量が少なくなったんだけど、どうすればいい?」とか聞いてきます。まずローカルにファイル保存しっぱなしにするなよ。

タイプで言ったら「サービス提案型」

SIer出身者はフリーランスより情シスに向いていると思う』という記事で「タイプ別に見る情シスタイプ分け」という話をした時の図を再掲します。
詳細な内容は元記事を参照いただければ幸いです。

この区分でいくと弊社は「Aに近づきたいC」に属していると思います。Cにも色んなタイプ、色んなレベル感があると思いますが、弊社の場合は経営層が先々を見越したデジタル化に積極的だが、現場の方がデジタルの目的や意義が浸透しておらず手順や制度の見直しをしようとすると非常に手間と時間が掛かる、みたいな感じです。

いつの間にか3人体制

昨年『ひとり情シスからふたり情シスになった話』という記事を書かせてもらいましたが、実は現在情シス3人体制でやっています。
わずか1年ちょっと前までは所謂「ひとり情シス」だったことを考えると短期間で飛躍的に規模が大きくなりましたが、技術職出身者は私一人で後は業務管理や総務の経験者。業務改革寄りの布陣になっています。

弊社情シスの業務範囲

業務範囲について一通り列挙してみます。
各業務を紹介する記事のリンクになっているのであわせて見ていってください。

以前『どこまでがITか、どこまでが情シスの仕事か』という記事でお話していた動画編集はようやくお役御免となりました。

私の得意分野・不得意分野

ちなみに私自身は元SIerでパッケージシステムの導入・カスタマイズ・保守等をやっていたバリバリのエンプラ系SEです。担当していたのは主にバックオフィス系なので、最も得意分野は上記でいったら6です。

あとは一通りのITスキルという点では、7~10はエンジニアとして人並み程度(ただし人にキチンと教えられるかは怪しい)、11、12は調べればなんとかわかるくらいです。4、5は「言葉は知ってるけど実物に触るのははじめて」からのスタートでした。

3になるともう完全に畑違い。このサイトをはじめてWeb系の用語と知識を勉強しつつ、ビジネスレベルで必要な知識を併せて学習しながら追いつきにかかっている状況です。
まあWeb系は前から興味はあったので、それはそれで楽しいんですが。

1は所謂デジタルトランスフォーメーション(DX)の領域。見本も正解も限られる中、自社のリソース(人、モノ、情報)とテクノロジーやサービスを結びつけてビジネスモデルを捻りだすという領域です。2は1が前提になる部分でもあるし、逆に1の実現に向けて事前に整備しておかなければいけない部分でもあります。

あまりにも項目が多岐に渡ってしまったので、一項目ずつ説明していきたいと思います。
まず第1回目としてデジタルシフト、所謂DXに関する分野からです。
理由は、トレンドだからです。みんな好きでしょ、流行りもの。

デジタルシフト(DX)について

1.デジタルシフトマネジメント(計画)

概要:夢を具体的な絵にする作業


現在の状態は、経営層はデジタルへの理解と期待はあるけど、実際に手を動かしてDX構想のイメージを具体的に図示したり、必要なサービス・体制・制度を考えたりできる実務側の人材がおらず、アウトソースしてコンサルティングを受けようにも、会社としてやりたいことを具体的に伝えられるほど整理できていないため依頼される側も困ってしまう、という感じです。
その結果、要件の取り纏めや実現可能なテクノロジーやソリューションの組み合わせの検討、実現に向けたロードマップの策定からの現場への落とし込み、それを共に考え実現していく外部パートナー選定まで、ほぼ全て情シスの管理領域となりました。

これらを称して「デジタルシフトマネジメント」の「計画フェーズ」と定義することにします。今は大まかなビジョンは経営陣と共有している段階で、どう具体的なイメージにするかもがいている状態です。

求められるスキル:ITと経営がわかるコンサルタント

求められるスキル:構想力、提案力、人脈、最新プロダクトやテクノロジーの知識と理解、経営者的思考

私自身が上記の全ての要素を兼ね備えているわけでは無く、実際にやってみながら「こういうスキルが必要な分野だな」と感じているものです。要約するとタイトルの通り「ITと経営がわかるコンサルタント」みたいな感じです。

計画を描く「構想力」、計画の効果を訴求する「提案力」が試されます。適用できるテクノロジーやプロダクトを知らなければ実現不可能な計画になってしまう可能性もあるので、「最新プロダクトやテクノロジーの知識と理解」は必須条件です。

またこういった新たなビジョンを独力で作り上げることは不可能です。対象とする領域について新たなソリューションを共創できるパートナーをどれだけ持っているか、繋がりを作れるコネクションを持っているか、つまり「人脈」によって実現度は大きく変わります。ある程度のレベルのITコンサルタントを一人でも捕まえておけば、そこから紹介してもらうこともできます。

そして「ITで実現する」という近視眼に陥らない、大局的な「経営者的思考」で計画を俯瞰することも重要です。

所感:DX(の計画)にワクワクしないSEはいません!


DX自体雲を掴むような話のようにも思えるところはありますが、今一番楽しい領域でもあります。技術的なバックボーンに基づいて新たな経営の創造に携われるというSEの醍醐味を最大限に享受できるし、何より自身の市場価値を上げることにもなると考えています。

全ての企業に対して正解となるDXのソリューションは恐らくありません。プロダクトに寄らず業務起点で一から考え、新たな経営ビジョンをDXで提案・実現したノウハウは、ユーザー企業で今後必要とされるようになるのではないかと思います。また、人脈がある、人を引っ張ってくることができることも市場価値に繋がります。

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2.デジタルシフトマネジメント(業務改革)

概要:デジタルを活用するための手順への変革


弊社の想定するDXにおいて、「情報」の比重が非常に高いです。

例えば経営数値のデジタル化をしていこうと思ったら営業データを管理しているSFAからの受注パイプライン情報、ERP等からの受発注・原価損益情報、財務会計からの財務諸表など様々な数値を取り扱うことになります。これらのビッグデータから傾向や特徴を捉えようとした時に、データの中身が不均一だったり必要なデータが入っていなければ活用することができません。

何に活用したいかによって整備すべき項目も変わってきますが、どのような切り口でもある程度耐えられるようなデータ規則やメンテナンスサイクル、更新者と更新フェーズの明確化・厳密化とチェック体制、定期的なデータクリーニング等を整える必要があります。

顧客情報を取り扱うCRMを例にしてみます。

・データ規則:氏名の姓・名の間、住所の区切り方(政令市の区は市区町村 or 町名)
・メンテナンスサイクル:メンテナンス項目により日次・週次・月次・年次
・更新者:営業、業務管理、システム管理者
・更新フェーズ:接客時、契約時、入金時、納品時
・チェック体制:メンテナンスサイクルまでに入力が完了しているか部門内チェック
・データクリーニング:データ規則ルールの逸脱や重複データチェック等

そもそも活用したいデータが担当者のパソコンのローカルに保存されているExcelにしか無いとデータは活用できません。どの場所のどの項目で管理できるようにすべきか検討し、そのための環境整備や運用ルール作り等を行い、データを活用可能な状態で保管する検討も必要です。

これらの整備のために現状の業務手順の見直しを行い、ついでに無駄な手順を排除していく、最終的にはデータ活用というゴールに向けたルール整備と業務の最適化を図ることを「デジタルシフトマネジメント」の「業務改革フェーズ」と定義することにします。

こうした活動はビッグデータ活用に限りません。例えばAIの場合でも、学習させるためのデータを用意する必要があります。学習済モデルもありますが、それを活用するためにも突合させるためのデータが必要です。何を行うにも既存データを活用可能な状態にしておくことは必要だと考えます。

現状は部門間で不統一だった入力ルールの統一や入力項目精査、Excelからシステム入力へ移行するために必要な運用上の変更等をヒアリングしながら、活用可能なデータが整備できる業務プロセスへの変革を行っています。冒頭にもあった通り現場においての理解が追いついておらず、プロセス変更やルールのもたらす恩恵よりも変化に適応するためのオーバーヘッドを嫌う傾向もまだありますが、ゴールイメージを示しながら根気強く進めていっています。

求められるスキル:This is “SE”

求められるスキル:業務知識、プロジェクトマネジメント等

1つ目は当然ですが「業務知識」です。各部門は何をやっているのか、自社内の業務の流れを押さえておく必要があります。それと同時に理解を深めすぎず第三者的視点から手順の非効率を指摘できる視点も重要でしょう。

そしてもう1つ必要なものは、「プロジェクトマネジメント」スキルではないかと考えています。部門間を横断するような活動=プロジェクトに対して、ゴールを設定し、それに向けたスケジュールとマイルストーンをメンバ・ステークホルダー(この場合社内の各部門)と共有、進捗を定量的・定性的に把握しながらゴールにたどり着くようにプロジェクトを止めずに推進していく。
メンバーやステークホルダーの特性をきちんと把握して効果的なアクションになるように工夫したり、時には経営陣からのトップダウンの指示を引き出したりしながら業務改革が頓挫せず、当初の目標に向かわせるのには結構な労力がいります。

言ってみればプロダクトの無いシステム導入プロジェクトみたいなもので、きちんとした動機付けや途中途中に明確な成果を産まないと途端に頓挫します。業務部門にとって業務改革は喫緊の課題として捉えられにくく、優先度が下げられ続けていった結果中途半端な状態で終わってしまうというのはよくある話です。そうならないようきちんとしたコントロールを継続的に行うには、プロジェクトマネジメントのような体系化された手法を使ってみるのが良いかもしれません。
本サイトでも『システム導入のエッセンス』という副題でプロジェクト管理の話をいくつか紹介しています。もしよろしければこちらも併せてご参照ください。

所感:結局SEが行きつく場所はここ


業務改革を情シス主導で進めるのは、十分な根拠とバックアップが必要です。弊社の場合、「デジタルシフトマネジメント(計画)」で述べた部分が根拠であり、経営陣のバックアップを受けられています。
その状況ですら、正直時々投げ出したくなるくらい大変です。トップダウンとはいえ、根拠となるDXの実現イメージは具体的に説明できるほどの所迄たどり着いておらず、現場に理解してもらうにはまだ曖昧です。バックアップがあっても「何で情シスが業務手順にこんなに口出ししてくるんだ」と思われてしまえばプロジェクト推進に支障が出ます。
逆に業務とテクノロジーの融合がそこまで進んできていると言うこともできるかもしれません。だからこそ情シスは業務部門が決めてきた個別最適なシステムのお守りではなく、全社横断的なデジタル経営のビジョンを示して推進していかなければならないのです。

とかなんとか御大層なことをのたまっておりますが、既存のお守りをしていない訳でもないし、デジタル路線もその実現のための人員追加も経営層の意思で決まったことで私は決定に一つも関与していません。お膳立てしていただいた上で、そこから先を進めるための管理者に任命されただけなのです。
一番泥臭くて一番テクニカルでなくて一番SE的なところなので、経験上得意分野ではあります。それを加味した任命だったのだろうと思います。

例えばクラウドのノンカスタマイズシステムを使うために業務プロセスを見直すのなんて、新プロセスの構築、規定等の見直し、社内外関係者との調整、教育など凄まじく人手がかかり死ぬほど面倒くさいです。
しかしデータドリブンな経営、システム更新やメンテナンスに係るコストの低減、担当者の能力に依存しない手順の画一化という成果にたどり着くにはその面倒を乗り越えなければいけません。
デジタルシフトも何でもすぐに自動化できるようになるという夢物語ではなく、そこにたどり着くためにはやはり幾多の面倒を乗り越えていかなければいけません。計画はコンサル的な壮大さで、業務改革はSE的な忍耐強さで取り組む領域かもしれません。

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