ひとり情シスからふたり情シスになった話 | ひとり情シス事情

ひとり情シスからふたり情シスになった話 | ひとり情シス事情

イントロダクション

twitterで既にご報告させていただきましたが、先月からひとり情シスを卒業し、ふたり情シスになりました。
非常に多くの方からお祝いのお言葉をいただき、さらに過去経験の無い拡散をしていただいたこと、改めて御礼申し上げます。本当にありがとうございました。
しがない情シスつぶやきサイトの端くれですが、今後ともご愛顧賜りますようどうぞよろしくお願いいたします。

さて、twitterでは「増えた」ということくらいしかご報告できておりませんでしたので、背景とか経緯とかちょっとお話ししておきたいと思います。
先にお断りしておきますが、ひとり情シスを脱出するためのノウハウややったことはほぼ一切語られません。
というか私自身増員についての働きかけは何もしていません。

「なんだよ、それじゃ聞いても意味ないわ」と思われるかもしれません。
しかしシステム選定同様、いやそれよりも人員増員というのは各企業の置かれている状況によって全く事情が異なり、全てに適用できる最適事例なんてものはありません。
それでも参考にできる部分が少しくらいあるかもしれませんし、他山の石にしていただけることがあれば幸いくらいの思いでお話しさせていただきたいと思います。

何せこの手の実体験が共有されている事例はあまりありません。
守秘義務の問題や身バレを恐れてということもありますが、何より「情シスの増員」という事例が稀有であるというのが理由ではないでしょうか。

そういう意味で数少ない実例として見ていただければと思っています。

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情シス増員の背景と経緯

そもそも「ゼロ情シス」だった

話は私の転職前に遡ります。
私の前任者の方は、私が転職する半年以上前に退職されていました。
その方も元々はSEから転職された方だったらしいのですが、10年近くご担当されていたらしく、その間外部のコンサルだったり補助要員が入ったことはあったようですが、ほぼ「ひとり情シス」だったようです。

「ひとり情シス」が退職したことで、企業は一度混乱に陥ります。
いなくなってわかる情シスの重要さです。
サービスやリース資産等の契約関係は総務・経理部門で一部代行していたようですが、サービス内容や資産の更新・再リースの判断などは行えず、経営層に相談しても誰もジャッジできないので、ほぼほぼ全て一旦継続契約にせざるをえませんでした。

それ以外の技術的な保守やメンテナンスに至ってはほぼ不可能で、業務が止まるほどのインシデントこそ無かったようですが、問題が発生したら業者に取り次ぐ、というか丸投げするのが精いっぱいで、そこで請求される費用については全て飲むしかありませんでした。

とにかく早急に後任を探さなければという状況で、たまたま転職先を探していた私が転がり込んで来たのです。

とにかく正常な状態への立て直しが急務

上記のような状態で入ってきたのですが、わずか半年担当者がいなかっただけで状況は結構悪化していたようでした。
パソコンの個体管理はせっかく資産管理システムがあるのにメンテナンスされていないので紐づきがバラバラ。
リース資産はとりあえず延長がかけられていたので陳腐化したパソコンが会社の半数以上を占めていました。
ネットワーク機器は更新時期を超過して、一部の機器からは異音がしています。
ライセンス関係はなんとか違反にはなっていないとはいえこちらもバージョンアップが大幅に遅れています。
その他にも掘れば出てくる課題だらけの状況です。

前任者が退職したのは半年前ですが、放置期間で言えば1~2年くらいではないかという印象でした。

とにかく様々な状況の立て直しが急務だったのですが、一気に更新するにはマンパワーも費用も足りません。
現状を整理し、会社に正しく理解してもらい、正常化へ向けて計画化・予算化を進める必要がありました。

よく聞く状況は、ここで「壊れてもないのに更新できない」「そんな予算取れないからもっと安価な案を」というような抵抗や否定にあって計画がとん挫→陳腐化したインフラやソフトが次々に崩壊して阿鼻叫喚、のような図ですが、私の場合提示した計画はほぼ全て受け入れていただけました。

これは非常に幸運なことだったと思います。
経営層のIT投資への理解、担当者不在で無計画に費用が掛かってきたことに対しての反動など色々な要素があったと思います。
しかし一番重要だったのは、「費用が掛かるものは掛かる。それが何時、どういう目的で必要で発生して、今後どういうサイクルで実行されるのか。そこにどういった付加価値が追加されるのか。それは事業計画とリンクしたものなのか。」という問いに対して明確に答える計画にすることでした。

情シスはただ技術屋であればいいわけではない

事業継続性という観点を正しく持っている経営層であれば、「壊れたら更新する」のような場当たり的な対応と費用発生をむしろ嫌います。
自社の経済規模に見合わない投資はできませんが、現在の事業を継続・発展させるための計画があれば、それに見合った事業体制が必要になります。
それは要員であり、組織であり、ITにとどまらない物理的なインフラも含まれます。

現在の事業を何年後までにこういう規模にしていきたい。
そのためにこういう施策を行う。
そのために必要な体制、要員がこれだけ必要である。
そしてその生産性を上げる要素としてこうしたインフラを準備する。
だから施策は成功でき、事業計画は達成できる、というのが事業継続のためのシナリオです。

事業継続とは「今やっていることを続ける」というだけではありません。
今と同じことをやっているだけでは基本的に規模は縮小します。
事業環境は日々変化していますし、新たな製品・サービスは日進月歩で市場に送り出されます。
より良い製品、より安価な製品により既存の製品は淘汰されていくのが市場原理です。
その中において企業として事業を継続するためには、企業自身が新たなものを市場に提供する努力を絶え間なく行う必要があります。
あるいはそういった市場原理の影響を受けにくい、他社には真似できない技術や製品を産みだそうとするのです。

そうした計画の中でITや情報システムだけが「変化無し」で良いと考えるのは、事業継続性の観点が疎かであると言わざるを得ないのが現在の状況です。
ITはもはや生産性向上において必要不可欠な要素です。
労働人口の減少が明白な中で、社員一人一人の生産性をこれまで以上に上げていかなくては、今やっていることを続けることすらままならなくなります。
生産性向上を短期間で、しかも新たに社員を雇用するよりも安価な固定費で実現するのがIT技術なのです。

日々の業務の中でパソコンが急に壊れたら、ネットワークが切れたら、システムが動作しなくなったら、想定していた生産性は出せなくなります。
常に想定していた生産性を維持するためにはITインフラをどのように安定稼働させるのか、どのようなサイクルで更新するのか重要な要素になるのです。

そして更新による投資に対しては新たな付加価値を持たせないと、同じ費用で同じ機能やサービスを享受するだけでは事業は発展しません。

こうした観点で自社の経営環境・経営計画を理解して経営層がITに求めるものと情シスが考える計画を一致させることができれば、更新計画はそう簡単に否決されることはありません。

ただ単に「Windows7のサポート期限が迫っているから」「耐用年数を超過したから」というだけでは投資に値する情報としては不足しているのです。

基礎インフラの立て直しとシステム稼働は同時進行

その意味で言うと、私が入社した時点でインフラ面は立て直しが必要な状態だったにも関わらず、業務システム、特に営業系のシステムはガンガン稼働、導入が進んでいました。
事業計画に沿った投資なのですが、そもそもそれが動作するインフラがグラついているのに、思うこともありました。

しかしインフラが不十分だから事業計画を止める、ということも難しいのです。
インフラについては情シスから情報を上げない限り、検討の俎上に上がることはほとんどありません。
それが行われていなかったのですから、誰も知る由もなかったわけです。
結局システム稼働とインフラ整備は同時並行で進めることになります。
これを「経営層がわかっていない」と言うのは簡単ですが、事業継続のために経営層がわからないところを補うのが情シスの役目であり、存在意義です。

経営層は決してITのプロフェッショナルではありません。全くの無知でも困りますが、社長がパソコンの更新時期を気にしているくらいならもっと別のことを考えてもらいたいです。
今の事業計画を遂行する上で必要な要素としてインフラが不足しているのであれば、それが何故事業遂行上必要なのかという観点できちんと説明する必要があります。
それが聞き入れられなければ事業遂行に支障をきたすことがわかっているのに、「理解してもらえないから」といって諦めるのは、事業継続を放棄することです。
もちろんどれだけ言っても聞き入れられずに放棄せざるを得ない場合もあると思います。
その場合は早めに転職を考えたほうが良いかもしれません。

「このシステムを稼働させて、継続的に利用するためには、このインフラの更新が必須条件である」ということも重要ですが、そうした単一点の話に留まらず、前項のように長期的な計画と付加価値を正しく提示する必要もあると考えます。

そんなこんなしてたら特大案件が降ってきた

というわけでPC更新計画、ネットワーク更新計画、携帯更新計画、セキュリティ計画等々の各種計画の策定と実施をやりつつ、営業系システムの稼働やらRPAやらを回していったところ、「このスピード感でいけるなら、いよいよ本丸に手を付けるか」というお達しが下りてきました。

情シスにおける十年に一度の特大イベント、基幹システム更新です。

「これまで手を付けたくはあったけどなかなかできなかったんだが、インフラや周辺システムの整備が進み始めたので、そろそろ着手したい」とのことでした。

色々回し始めてはいたとはいえ、基幹システム更新となるとそれらの比ではありません。
公立高校の弱小野球部がようやく対外試合で勝ち負けできるようになってきたところで、大阪桐蔭や横浜高校と試合をするようなレベルです。

しかしここでももう一つの幸運がありました。

基幹システム更新を提案してきた役員自身、現行の基幹システムの導入時に現場で導入作業を行っていた人でした。
基幹の更新の困難さを骨身にしみてわかっている人だったのです。

「更新プロジェクトの立ち上げまでには情シスに1人増員する。」

と言っていただけました。

とはいえ要員追加も相手あってのこと。
とりあえずどんな人でもいいから、というわけにもいきませんし、そんな丁度いい人が丁度いいタイミングで見つかるとは限りません。

またシステム更新の間は増員が無いとさすがに厳しいとは思いながらも、カットオーバーして安定稼働までたどり着いた時に体制を維持するのは難しいです。
人を雇うとシステム導入なんかよりずっと固定費が増えます。
基幹システム更新が終われば暇になるとまでは言わないまでも、所謂間接部門である情シスが余剰人員を抱えるのは難しいですが、そこについては折り込み済での増員計画でした。

「新規要員はマーケティング担当として営業系システムを担当できる人か、総務経理として基幹系システムを担当できる人のどちらかになる。ただし身分は情シスのままにする。」

簡単に言うと1人増員だけど情シス専任ではない、ということでした。
ただし身分を情シスに置いてくれることで、継続して組織的な対応を可能にできることにはメリットがあります。

ただしこの条件が加わることで要員探しはさらに難しくなります。
マーケティングをやりたい人、経理をやりたい人はいるでしょうが、その人に「情シスで採用になる」をOKしてもらわなくてはいけません。
前提として「採用したい人」を絞るだけでも難しいのに、さらにハードルは上がります。

こちらから打診した話でもないので、とりあえず気長に待ちながらシステム選定に取り掛かったのが早春の頃でした。

そして増員の話も忘れかけプロジェクトキックオフの準備に追われていた頃、先ほどの役員に呼び止められました。

「月末頃になるので、よろしく。」

何がですか?

「新しい人。」

かくして「更新プロジェクトの立ち上げまでには情シスに1人増員する。」の公約はほぼ守っていただき、晴れてひとり情シスを卒業することになりました。

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あとがき

採用されたのは経理系の人なので、いきなりどっぷり基幹システム更新の方に入ってもらうことになりました。
システムを使う側のつもりだったのがシステムを導入する側≒作る側になったにも関わらず、今のところ非常に前向きに取り組んでいただいていてとても助かっています。

どんな人が入ってもらっても、最初はオーバーヘッドが発生するのは仕方ないので、とにかく手数が増えただけでも喜ばしい限りです。

私が経験した情シス増員は様々な幸運が重なった結果です。
情報システムを理解いただける経営層がいることが何よりの幸運でしたが、ラインの担当者からも「ようやく増やしてもらえてよかったね」と言っていただけたことが一番うれしいことでした。
なかなか現場から見えない業務なので、忙しいといっても理解されないのではと思うこともあったのですが、現場が情シスの立ち回りを少しでも見ていてもらえたことがわかって報われた気がしました。

ひとり情シスは卒業になりましたが、情シスの業務や転職等の情報については今後も「ひとり情シス事情」というカテゴリを継続させていただきたいと思います。
読んでいただいている方に少しでも有益な情報を提供できるよう、こちらのほうもがんばっていきたいと思いますので、引き続きよろしくお願いいたします。

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