イントロダクション
ネットワーク機器について専門的な話に入る一歩前、「そもそも何をする機械なのか?」をお話しする「今更聞けないネットワーク機器の基本知識」、第6回目です。
前回ルーターの話の最後に「デフォルトゲートウェイ」という単語が出てきました。
そこでふと考えました。
「ゲートウェイって、何?」
実は第1回でONUやメディアコンバータの話をしている中でも「ホームゲートウェイ」という単語が登場しています。
今回は、単独の機械としての「ゲートウェイ」というより、言葉として「ゲートウェイ」とは何なのかを調べていきたいと思います。
ゲートウェイとOSI参照モデル
ゲートウェイとは
ゲートウェイとは「異なるプロトコルのネットワークを接続するネットワーク機器」のことです。
Wikipedia先生がそう言っていらっしゃいます。
で終わると何の意味も無いので続けます。
第1回で出てきた「ホームゲートウェイ」について、ONUと一緒にひかり電話用のルーターが入っている、という説明をしましたが、この「ひかり電話用のルーター」のことを「VoIPゲートウェイ」と呼びます。ちなみに「VoIP」はインターネット回線を使って電話をするための技術です。
電話機からVoIPゲートウェイまで流れているデータは、音声データです。VoIPゲートウェイに到達した音声データはインターネットを通信できる規格=SIPに変換します。受信側はその逆を行います。VoIPゲートウェイは「音声データ」と「SIP」という2つの異なるプロトコルのデータを相互にやりとりすることができるのです。
ルーターはゲートウェイの1種
ルーターは「異なるネットワーク」を繋ぐことができる機械ですが、基本的にネットワーク層におけるTCP/IPのやり取りであり、「異なるプロトコル」を扱っていません。
しかし広義の意味で「出入り口」と考えた場合、例えばWANとLANをつなぐ出入り口です。
パソコンのネットワーク設定における「デフォルトゲートウェイ」にルーターのアドレスが設定してあるのは、ルーターがゲートウェイの一種であることを示しています。
歴史的背景も踏まえると、初期のインターネットにおいてネットワークの境目に設置され、IPパケットを転送していたが「ゲートウェイ」であり、その役目を引き継ぎネットワーク機器として専業化したものがルーターなのです。
狭義の意味で「異なるプロトコルのネットワークを接続する」機械=ゲートウェイですが、現在では「ネットワークを接続する」の部分を指して使われる場合があるということになります。
OSI参照モデルとは
ルーターがネットワーク層だけを扱っている機器なのに対して、「ゲートウェイ」という言葉が適用される機器はネットワーク層に限らずOSI参照モデルの全ての階層で使うことができます。
「OSI参照モデル」とはコンピューターの持つ通信機能を7つの階層に分けたモデルで、国際標準規格で定められています。定められている階層は以下の7つです。
1.物理層
読んで字のごとく、物理的な接続です。銅線やコネクタでの接続を指します。光ケーブルやハブなどの機械そのもののことです。
電波の形状ではありますが、無線通信も物理層に該当します。
コネクタの形状やピンの数だったり、銅線と光ケーブル間の電気信号の変換などの規格=プロトコルが定められています。
2.データリンク層
直接接続されている機械の間での信号の受け渡し、要はLAN(イーサネット)のことと思ってよいと思います。
LAN線で隣り合うコンピューター同士が繋がり、通信するための規格が定められています。
3.ネットワーク層
ネットワークにおける通信経路の選択が行われます。ルーターはここに属する機器で、代表的な規格がIP=インターネットプロトコルです。IPのルールに沿った通信はルーターで他のネットワークへ繋がることができます。
本来同一ネットワーク内のコンピューターとだけ通信する場合は、データリンク層にあたるMACアドレスさえあれば事足りるのですが、ネットワーク内とネットワーク外の通信を同一規格にしたほうが制御が1つに纏められるメリットがあるのでLANの中もIPネットワークで通信するようになっています。
4.トランスポート層
通信監理を行っており、代表的な規格がTCPとUDPです。「TCP/IP」というのはネットワーク層でIPに、トランスポート層でTCPに準拠した通信のことです。
IPは通信を他のネットワークに繋いではくれますが、きちんと要求した情報が相手に到達して、自分のところに返ってくることをあまり保証してくれません。
そこでTCPが通信元と通信先での接続(コネクション)を確立して、データの順番や内容に誤りが無いかチェックすることで、きちんと送受信されることを保証してくれるようになります。
インターネットでWebページを閲覧する際に行われている通信の大半はTCPとIPによって接続が確立されて行われているのです。
5.セッション層
セッション層は一つ上の階層であるプレゼンテーション層のリクエストによって通信を開始/終了する指示をトランスポート層に渡す役割があります。
通信は四六時中行われているわけではなく、「このWebページを閲覧したい」というリクエストが発生した時に開始されます。そしてページ閲覧が終わった時点で通信を終了します。
しかしインターネット通信においてセッション層は規定されているプロトコルも存在するものの、大部分の機能は上位階層であるアプリケーション層が実装しており、概念として存在していると思ってもよいかもしれません。
6.プレゼンテーション層
ここまでの階層で行われている通信でやり取りされるデータは、電気信号から0と1のデータを受け取り、2進数で簡単なデータ化するところまででした。
プレゼンテーション層にきてようやく我々が通常目にするような文字データのような形に加工されます。
上位階層であるアプリケーション層で表示される際に、アプリケーション側がどのような書式のデータが来るか意識せずに表示ができるように加工するのがプレゼンテーション層の役割です。
7.アプリケーション層
ここでようやく通常パソコンで目にするソフト類に到達します。
Webブラウザなどがこれにあたり、アプリケーション層からの入力が次々に下の階層に渡されながら目的のコンピューター(のアプリケーション)まで到達し、また逆向きのルートを通って帰ってくることでアプリケーションに結果が描画されるようになります。
前述のようにセッション層の機能を果たしたりする部分もありますが、「最終的に利用者が目にする入出力機能」と考えて間違いないと思います。
あとがき
「ネットワーク」と一口で纏めるのは難しい
パソコンをはじめとするコンピューターの多くは、通信によって他のコンピューターと接続できることが大きな機能の一つになります。
用途によってネットワークに接続しないクローズドな環境で使用するコンピューターもありますが、基本的には他のコンピューターのリソースを利用することができるネットワーク技術こそコンピューターやパソコンが爆発的に普及した一因です。
最初は隣あうコンピューター間の通信からはじまり、複数のマシンを接続したネットワーク、ネットワークとネットワークを接続する仕組みへと進化し、それが拡大していったものがインターネットです。
OSI参照モデルを見ると、ネットワークが決してLANケーブルやルーターなどの目に見えるネットワークインフラだけによって成り立っているわけではないことがわかります。
それぞれの階層の中にも異なるプロトコルが存在し、それらを繋ぎ合わせる役割を持った機械=ゲートウェイなのです。
「ネットワークの調子が悪い」というのは「パソコンの調子が悪い」と同じくらい漠然とした話なのです。問題が発生しているアプリケーションからOSI参照モデルの階層を一つずつ下って行きながら、アプリの問題なのか、パソコン固有の問題なのか、特定のLANのゾーンの問題なのか、社内LAN全体の問題なのか、インターネット接続の問題なのか切り分けていく必要があります。
ネットワーク一つとっても非常に奥深い世界なのです。
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