無線LANトラブル対応実記 バックナンバー
無線LANの暗号化規格について | 無線LANトラブル対応実記(1)
無線LANの伝送規格について | 無線LANトラブル対応実記(2)
調査の優先度と事象の切り分け方 | 無線LANトラブル対応実記(3)
前回までのおさらい
無線APの更新を行ったところ、更新直後にネットワークに繋がらない、ネットワークが遅くなったパソコンが発生しました。
パソコン側の暗号化規格の設定誤りでWPAパーソナルを設定したパソコンが繋がらないことまでは判明しましが、それでもまだ不具合が起きているパソコンが残っています。。
新無線APは新たに5GHz帯の高速伝送規格であるIEEE802.11acに対応しましたが、それに関連した原因の調査にあたって無線LANの伝送規格についてまとめてみました。
また実調査において心がけるべき調査の優先度と事象の切り分けについてもお話してきました。
速度遅延の原因を調べる
2.4GHz帯の11nの特徴を考える
ここからいよいよ実調査についての話です。
起きている事象としては、無線APの更新によって、特定の部署のネットワークの伝送速度が更新前よりも低下しているというものです。
現象が発生しているパソコンは更新前から伝送規格IEEE802.11nの2.4GHz帯をした上で、スケジュールしていました。
前回無線LANの伝送規格の話で出てきた2.4GHz帯及び11nの特徴を考えてみます。
IEEE802.11nの特長(主に2.4GHz帯を利用)
・2.4GHz帯は電波干渉に弱い
・2.4GHz帯は障害物に強い
・11nは複数のチャネルを束ねることができる(チャネルボンディング)
・11nは複数のアンテナを束ねることができる(MIMO)
上からそれぞれ検証していくことにします。
まず真っ先に疑ったのは電波干渉です。
機器が変わったことにより使用しているチャネルが変わり、近くの製品のチャネルと干渉しあった結果速度遅延が起きている。
CiscoのAironet 1830 シリーズの管理画面からは、無線AP毎に電波干渉がどれくらい起きているか確認することができます。
管理画面から見たところ、電波干渉はさして起こっていませんでした。
無いことはないけど、他の部門と比較して飛びぬけて多いというわけではなく、この部門だけ纏まって遅延が発生している原因にはなりません。
チャネルボンディングを行うとより干渉が大きくなる可能性があるのでこれじゃないかと思ったのですが。
。。。ん?
チャネルボンディング、してる?
管理画面から対象の無線APのチャネル幅を確認したところ、「20MHz」。
つまり1チャネルしか使っていないということでした。
というか1チャネルしか使えないのです、Ciscoの無線APの場合は。
2.4GHz帯のチャネルボンディングの取り扱い
前回「2.4GHzのチャネルボンディングは20MHzの時よりさらに電波干渉を受けやすくなるため、機器によってはサポートしていない場合もあります」と書きましたが、まさにこれです。
Ciscoの場合そもそも40MHzをサポートしていませんが、サポートしている製品であってもデフォルトではだいたい20GHzが選択されています。
通信機器はデータ転送が高速であることも求められますが、ネットワークに繋がってなんぼです。干渉によりつながりにくくなるリスクは利用者が自分で判断する必要があるのです。
現象が起こっていた部署に更新前に設置されていた無線APのチャネル幅は案の定40GHzでしたが、これはイレギュラーで、他の無線APは全て20GHzで設定されていました。
何故そこだけ40GHzで設定されていたのかは、前任者の資料も残っておらず、意図的なものなのか誤って設定されていたものなのかわかりませんでした。
「機器が更新されて性能が落ちる」は説明しにくい
とりあえず原因がわかって納得しました。私自身は。
ただこれを業務部門に説明して納得してもらえるかというと別の話です。
「他の部署ではこれが標準的な速度なので、社内標準に合わせてください」
だけでも説得が難しいのに、今回は機器が新しく更新されています。
機器が更新される=性能が良くなるというのが一般的な感覚ですし、基本的にはそうでなければいけません。
更新前の機器の設定をした前任者の責任にしても状況が改善するわけでもないですし、結局今対応するのは自分しかいないのです。
結論としては、内蔵無線子機を持たないデスクトップPC用に5GHz対応の外付け無線子機を購入するタイミングでその部署用の外付け子機を購入することで納得してもらいました。
元々5GHz帯への移行を目論んで更新した機器ですし、移行タイミングが前倒しになるだけであれば承認も得やすいからです。
最後に残った繋がらない機器と外付け無線子機について
USBインタフェースの外付け子機の注意点
最近の外付け子機は概ね11acに対応しているものが多いです。
アンテナ数が多ければMIMOの恩恵にも預かれるので高速化が実現できます。
ただここで1つ注意しなければいけないことがあります。
それは「パソコン側のUSBポートの規格」です。
無線AP、無線子機共に高速大容量通信ができていても、受けた電波がパソコンに到達しなければ意味がありません。
無線子機からパソコンへつながる伝送路がUSBポートですが、USBにも規格があります。
最も古い規格であるUSB1.1の転送速度は12Mbpsです。11nの規格最大値が600Mbps、11acの規格最大値が6,900Mbpsですから、無線子機がどれだけ多くのデータを転送できてもパソコンには低速でしか伝わりません。
現在一般的に使用されているUSB2.0の転送速度は480Mbps、USB3.0だと5Gbpsと転送速度が向上しています。
規格最大値はあくまで規格で定められた機能を最大限利用した倍の理論値なので、実測値といてはそこまでの数値は出ないとはいえ、やはりUSB1.1のポートでは低速にならざるを得ないでしょう。
11acの性能を十分に生かすには、USB3.0以上のポートが望ましいと言われています。
そして残った繋がらない数台のパソコン
ここまで暗号化規格の違い、規格に定義されていても機器によってサポートされていない機能による問題と、完全ではないまでも一応原因と思われるものを特定できました。
残るは優先度を下げて有線接続で凌いでもらっている数台のパソコンです。
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