・クラウドだとかSaaSだとかよく聞くけど何なの?という人
・「とりあえずクラウド化すればDXになる!」という勘違いしている人
・上記のような勘違いしている人に説明したい人
IT/デジタル領域はDXだとかAIだとかIoTだとか5Gだとかトレンドワードが飛び交っています(今に始まった話ではないですが…)。
専門外の人にはよくわからないこともあるとは思いますが、企業経営において「よくわからない」では済まされない時代がきています。まして情報システム部門ともなるとまず率先して情報をキャッチしていかなければいけません。
しかしベンダーやメディアの情報は「こんなこともできます、あんなこともできます」のような夢物語でどうも信用ならん、漠然とはわかるけど実際に利用しようとしたらどうすればいいか、と不安になることもあるかもしれません。
そこでユーザー企業の情シスの視点で、こうしたトレンドワードに踊らされないための「指南書」を纏めてみようと思いました。
今回取り上げるワードは「クラウド」です。DXとかと比較すると少し前のトレンドワードではありますが、DXを実現する技術としても重要なワードです。
纏めたところ凄まじい分量(2万字くらい)になったので、2回に分けてご紹介します。
前半はクラウドとは何かという話と「概念上の」クラウドのメリット・デメリットの話、後半はクラウド利用の「実際の」ところとメリット享受のためのポイントをお話していきたいと思います。
話の要点
- クラウド(クラウドコンピューティング)とはインターネットを通じてアプリケーションやサービスを利用するための技術である。
- SaaS/PaaS/IaaSはクラウドで提供されるサービスで、名称の違いは提供されるサービスの違いである。
- 契約はサーバやソフトを購入せずに料金を払って利用する方式で、サブスクリプション方式と呼ばれる。
- クラウドのメリットは以下の5点
1.初期投資の費用と時間が抑えられる
2.運用管理や更新の手間がかからない
3.法改正や新規機能に自動で対応してもらえる
4.いつでも、どこでもアクセスできる
5.利用の拡張・縮小が容易 - クラウドのデメリットは以下の3点
1.カスタマイズが難しい
2.セキュリティに対する不安
3.サービスの継続性に対する不安 - 正しく理解しないとメリットを享受できないことも
クラウドという概念
クラウドとは何か
まずは「クラウドとは何か」を理解するところからはじめたいと思います。
クラウド(正式にはクラウドコンピューティング)とはサーバやネットワーク、ソフトウェア等の資源をインターネットを通して利用する技術の総称です。
これまでソフトは主に「自分のパソコン」や「自前のサーバ」にインストールしなければいけませんでした。Office(ExcelやWord)を使おうと思ったらインストール用の媒体(CDやDVD)を使ってパソコンにインストールしていました。法人独自でメールを運用する場合は、メールサーバを構築したりパソコンにメールソフトをインストールする必要がありました。業務システムもシステムだけではなくサーバやネットワーク機器も含めたハードウェアと一緒に導入するのがあたりまえでした。
これらのものがインターネットを通じてWebブラウザから利用できるようになってきています。
それを実現しているのがクラウドなのです。
「WebメールなんてYahoo!メールとかHotmailとか結構前からあったよね」と思われるかもしれませんが、実はその通りです。サービスが先にあって「クラウド」という言葉が後からやってきました。
クラウドという言葉自体は2006年に当時のGoogleのCEOであるエリック・シュミットが「これからこういうのがくるぜ!」みたいな感じで提唱した言葉です。
インターネットを通じてサービスを提供すること自体は以前から存在していたのですが、以下のような様々な技術の発展があり、特定分野のみに限られていたインターネット経由でのサービス提供が幅広い分野で行われるようになる、それを支える技術の総称が「クラウド」であるということです。
クラウドを実現した技術発展
- インターネットの普及と高速・低遅延通信網の発展
- モバイルデバイスの普及とモバイルネットワークの高速・大容量化
- インターネット経由でもセキュリティを確保するための通信技術の発展
- サーバ仮想化やKubernetesなどサービス提供インフラ側の技術の発展など
- Ajaxなどのプログラミング手法やアプリケーションフレームワークによるWebアプリケーション開発の進化
簡単に言うと以下のようになります。
SaaS:自分のPCやサーバにインストールがいらないソフト
OfficeOnlineやGmailなど、Officeやメールにブラウザからインターネットで接続できます。DropBoxやGoogleドライブなどのオンラインストレージも、ストレージ領域という意味ではハードウェアの要素もありますが、共有等の機能はサービスとして提供されています。
業務システムも財務会計・人事給与・勤怠管理・経費精算等のバックオフィス系もあれば、営業支援(SFA)、顧客管理(CRM)、生産管理(SCM)、統合型の基幹業務管理(ERP)など様々なシステムがインターネット経由で提供されるようになりました。
こうしたクラウドでソフト・アプリケーションを利用するサービスを「SaaS(Software as a Service)」と呼びます。「SaaS」は「サース」もしくは「サーズ」と読みます。
SaaSに近い言葉に「ASP(Application Service Provider)」があります。概念としてはクラウドやSaaSよりも昔からあり、インターネットを経由してアプリケーションをサービスとして提供する事業者、転じて提供されるサービスを指します。
狭義にはSaaSはアプリケーションのみ、ASPはサービス全体を指すなど違いもありますが、事業者を指す場合を除いてはほぼ同じ意味の言葉と考えていて差し支え無いと思います。
IaaS/PaaS:ハードウェアやインフラもクラウドで
SaaS以外のクラウドサービスに、サーバ・インフラ自体をインターネットから利用する「IaaS(Infrastructure as a Service)」(「イアース」「アイアース」と読む)や、サーバだけではなく開発プラットフォーム(OS/ネットワーク/フレームワークや開発環境)まで利用する「PaaS(Platform as a Service)」(「パース」と読む)があります。
IaaS/PaaSの代表的なサービスとしてAmazon.comの「AmazonWebServices(AWS)」、Microsoftの「MicrosoftAzure」、Googleの「GoogleCloudPlatform(GCP)」などがあります。こうしたサービスはインターネットに繋がっていればどこからでも接続可能なため「パブリッククラウド」と呼ばれます。
「パブリック」があるならその逆で「プライベート」もあります。簡単に言うと「自社からしか接続できないクラウド環境」です。データセンターにホスティングされた環境にインターネット経由で接続するようなものも、閉域網を利用した拠点間VPN内からだけ接続できるように制限したパブリッククラウドも、自社からしか接続できなければ「プライベートクラウド」に分類されます。
「〇aaS(〇〇 as a Service)」が乱立していますが、基本的にはSaaS/PaaS/IaaSに分類され、そこから利用方法や提供サービスにより特化したものが個別に名称を付けていると思ってよいと思います。
例)DaaS(Desktop as a Service):PaaSで仮想PCを提供するサービス
ちなみにクラウドの対義語になるのは「オンプレミス」です。簡単に言えば自社保有のことで、従来通り自社でサーバやソフトを買って利用することです。
「購入する」から「利用する」へ
細かい技術的な話は割愛しますが、「自前のサーバ」ではなく「他者のサーバ」で動いているものをインターネットを通じて利用するのがクラウドサービスです。利用するものがアプリケーションなのかサーバ環境そのものなのかでSaaSやPaaSやIaaSなど呼び方が違いますが、どれもクラウドサービスです。
他者がサーバを購入したり環境を構築したりすることに対して、利用者は直接的にお金を払いません。インターネットを通じてその環境やサービスを利用する期間だけ利用料を払います。ソフトやアプリの場合は、動作するサーバやデータ領域、サーバとインターネットを繋ぐネットワーク等も含めた金額が利用料に含まれていると考えられます。
これによりこれまで「購入」しないと使えなかったソフトウェアを、お金を払っている間だけ「利用」できるようになりました。レンタル契約に近く「サブスクリプション方式」と呼ばれています。
買う側からするとまとまった金額が手元に無くても高額な商品やサービスを利用することができます。
売る側としても少額で手軽に始めてもらえるので契約が取りやすいですし、在庫で寝かせておくよりは小銭でも売上になるほうが良いです。ストックビジネス(所謂チャリンチャリンビジネス)として目算が立つ売上を持てることも魅力です。
ということで双方の利害が一致した結果、サブスクリプション契約は「サブスク」と略されたりしてクラウドと関係ないものまで一般的に使われるようになっています。
ちなみにアプリとはAppleStoreやGooglePlayから取得するスマホアプリだけではなく、アプリケーション全般を指す言葉です。Web上でサービスを提供するために構築されたプログラムがWebアプリケーションであり、「Web」が取り払われて「アプリケーション」とか「アプリ」とだけ呼ぶ場合もあります。
「概念上の」クラウドサービスのメリット
会計・経理管理のためのソフト導入を例にオンプレミスと比較しながらクラウドのメリットを紹介していきます。説明しやすくするために以下のような状況を設定させていただきます。
オンプレミス:家電量販店で売っている「〇〇会計」というソフトを購入する。
クラウド:インターネットで「□□会計クラウド」というサービスに登録する。
【ある程度以上の規模の法人】
オンプレミス:オンプレミス型の「☆☆会計システム」を導入する。
クラウド:SaaSの「★★会計ASP」を利用する。
1.初期投資の費用と時間が抑えられる
個人事業主や小規模な会社の場合、「〇〇会計」を使い始めたはいいけどの使い勝手が悪かったり必要な機能が無かったとして、新しいソフトを買うとそれだけ費用がかかります。
ある程度の企業の場合、そもそもソフトの価格が高いので買いなおしはほぼありえません。またソフトの規模が大きくなるとそれが動作するために必要なハードウェア、ネットワーク、ミドルウェア等も必要です。不測の事態のためのバックアップ装置も必要になるでしょう。また費用は導入時に一気に発生します。帳簿上は数年かけて減価償却しますが、キャッシュへの影響はあります。そのため必然的に選定に慎重になります。
ようやく「☆☆会計システム」の導入が決定してからも機器やソフトのセットアップが完了するまで動作させることができず、大規模システムになると検討開始から稼働まで2~3年ということもあります。システム導入により効果を得られるまで時間がかかってしまい、スピーディな経営を実現することが困難になります。
クラウドサービスである「□□会計クラウド」や「★★会計ASP」はインターネットから登録が完了すればそのまま利用しはじめることが可能です。
もちろんデータのセットアップだったり業務の切替だったりは必要ですが、それはオンプレミスでも発生します。月額利用でお試しで使ってみて、思っていたのと違っていればやめることもできます。使ってみてもいないシステムを時間を掛けて慎重に選定するくらいなら、数千円か数万円、個人事業者向けなら月額数百円くらいで試しに使って決めたほうがよっぽどスピーディだし効率的です。
本格的に使い始めてから載せ替えるのはオンプレミスでもクラウドでも労力がかかりますが、お試しで使ってやめることができるのがクラウドのメリットです。
契約した時点でサービスは既に動作していますから、インストールや構築などをすっ飛ばして業務検討だけに集中できるので稼働までの期間も短縮することができます。費用もそうですが「時は金なり」、期間短縮は大きな効果です。
月額や年額でのサブスクリプション契約のため、帳簿上に資産として計上したり減価償却の必要が無く、初期導入費用が抑えられるのでキャッシュの心配も軽減できます。
運用管理や更新の手間がかからない
会計ソフトの例の話に戻ります。
「〇〇会計」の場合、個人事業者だとパソコンへのインストール作業が苦手という人もいるでしょう。パソコンが故障してデータが取り出せなくなったり、パソコンを買い替えようとしたら新しいOSにソフトが対応していなかったり、データを取り出して移行したり色々な手間がかかります。
「☆☆会計システム」の場合、ハードウェアの保守年限になりサーバを移行しようとしたところ新しいサーバOSにソフト対応していなかったり、動作環境側のパソコンのOSやブラウザが新しくなった時に動作保証されてなかったりして、改修やバージョンアップに費用がかかることもあります。
ハードウェア故障やスケジュール化されたバッチ処理がうまく流れなかったりして業務が停止したりすることもありますし、それが発生しないための定期的なメンテナンスや稼働監視を行うなど運用負荷も軽くはありません。
クラウドサービスである「□□会計クラウド」や「★★会計ASP」であればWebブラウザからの利用であることが大半のため動作環境の違いを意識することはあまりありません。データはクラウドサービス側にあるためパソコンの入替があっても継続して利用できますし、サーバ更新の心配も無くなります。
サービスの停止が全くないとは言い切れませんが、環境の多重化等によって業務継続が可能な構成を用意する等によって稼働保証を付けているサービスも多くあります。
安定して継続利用ができ、インフラはサービス提供者側が管理しているため運用負荷も軽減することができます。
法改正や新規機能を自動で更新してもらえる
2019年にあった大きな改正に消費税改正がありました。
会計システムは消費税率の変更による影響が考えられます。
「〇〇会計」はメーカーに保守登録のハガキを送っておけばオーバーライト版の媒体が届く仕組みになっていましたが、よくわからないので登録していなかったり、登録していてもオーバーライトの適用でまた一苦労する可能性もあります。
「☆☆会計システム」だと最悪の場合法改正対応として有償カスタマイズになる可能性もあります。
クラウドサービスである「□□会計クラウド」や「★★会計ASP」であれば自動的に新税率対応が行われ、新税率対応後の事務の方法などがヘルプページなどで公開されます。
クラウドサービスは更新や新機能のリリースなどが自動的に行われ、常に最新の機能を利用できる点も大きなメリットです。
いつでも、どこでもアクセスできる
「〇〇会計」は利用者のパソコンの中、「☆☆会計システム」は社内ネットワーク内のみからしか接続できません。
会計システムなので出先で見るようなことはあまりないかもしれませんが、例えば外部の会計士に監査してもらおうとした時に、わざわざ出向いていただく必要がありますし、そのための日程調整等も必要です。
インターネットに公開されていない社内LANの中にあるオンプレミスのシステムであればそもそも社内LAN以外から利用することは困難です。VPN接続で社内LANに入ったり等手が無いことは無いですが、個別のシステムだけではなくLAN内の全ての資産にアクセスできるという点で本当にセキュアかと言われるとこちらも疑問です。
クラウドサービスである「□□会計クラウド」や「★★会計ASP」であればインターネットで接続するため、インターネット接続環境があればいつでも、どこでも接続することができます(企業で利用する場合、完全に「いつでも、どこでも」だとセキュリティ的に問題ですが)。外部の会計士監査もリモートで実施いただくことも可能です。
モバイルワーク、在宅勤務等多様な働き方が認められるようになる中で、自社内からしか使えないシステムでは要件を達成することは難しいです。
利用の拡張・縮小が容易
会計システムとは別の例で2つお話します。
1つ目はOfficeです。
社員数が100名の会社でOfficeを使用しているとします。
ライセンスは100個必要ですが、これまでの媒体インストール+プロダクトキーのような管理の場合、社員数が増えれば追加でライセンス購入できますが、減った時にキャンセルすることはできません。
例えばOffice365であれば当初100IDではじめて、人が増えれば契約を追加、減れば契約を解除することができます。
2つ目は自社が外部に提供しているWebサービスの動作環境です。
想定利用者数から必要なサーバリソース(CPU性能、メモリ、ストレージ容量等)を算定してサーバを構築するのですが、想定より利用者が多く負荷が高ければサービスの遅延・停止が発生してしまいますし、逆に利用者が少なく負荷が低ければ過剰投資になってしまします。
IaaSやPaaSのサービスであればサーバリソースを柔軟に変更することも可能です。
クラウドはメリットしかない?デメリットは?
クラウドのデメリット
もちろんクラウドにもデメリットはあります。
一般的に言われているデメリットを以下に列記します。
・セキュリティに対する不安
・サービスの継続性に対する不安(停止や倒産)
クラウドサービスは言ってみればパッケージソフトのようなもので、提供されたものをマニュアルに沿って使いこなすのが前提です。使える機能によってサービスグレードが違ったり、オプションサービスがあるものもありますが、個別要件に対応してカスタマイズすることはほぼありません。
またセキュリティが確保されたと言いながらも、通信経路はインターネットであることに変わりは無く、データを他社に預けることに不安がないこともありません。
悪意を持った攻撃だけでなく、例えばAWSのWebファイアウォールの設定ミスによってデータが一般公開される状態になっており1億件の顧客個人情報を漏洩させたアメリカの金融企業CapitalOneの事例等があります。
最後に、契約しているサービスを提供している会社が倒産したらどうなるでしょうか。倒産しないまでもサービス提供を終了する恐れもあります。買い切りのシステムであれば、その後の保守の不安はあるけどいきなりシステムが使えなくなることはありませんが、クラウド利用の場合サービス終了=システムが使えなくなります。
またSaaSのサービス自体の問題は無くても、動作している環境であるPaaS/IaaS環境の問題によりシステムが停止することもあります(例:2019年8月のAWS東京リージョンの大規模障害)。予期せぬ障害が発生した場合にこちらから手を打つことが何もできずただ待つだけで復旧予定も不明ということも覚悟しなければいけません。
メリットが正しく享受できない場合がある?
「デメリット」は上記の通りですが、実は最大のデメリットは「享受できるはずと思っていたメリットが享受できない場合がある」ことです。これを回避するためには、技術的な知識だけではなく、実際の製品や運用等を含めた理解が必要になります。
今回紹介したのは「概念上の」メリットですが、実際に利用するにあたっての「本当のところ」を次の記事で紹介していきたいと思います。
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