無線LANトラブル対応実記 バックナンバー
無線LANの暗号化規格について | 無線LANトラブル対応実記(1)
前回のおさらい
前回は無線APの更新によって発生したトラブルから、暗号化規格の話をしました。
いきなり細かい説明を端折ってIEEE802.11iの話になったので、今回は少し無線LANの単語を基礎からお話していきたいと思います。
私も苦手な分野ではあるので、私自身が理解できるレベルに噛み砕けるよう努力します。
無線LANの標準規格・IEEE802.11とは
IEEE=アメリカの学会
無線LANの話をする時に必ず出てくる「IEEE802.11●」という単語。
この単語を分解すると「IEEE」「802」「11」の3つに分かれます。
まず「IEEE」の部分ですが、これはアメリカの電気工学・電子工学技術の学会「The Institute of Electrical and Electronics Engineers, Inc.」の略称です。
通信・電子・情報工学とその関連分野について規格を定める標準化活動を行っています。
メーカーによって異なる仕様で通信機器や電子機器が作られてしまうと、互換性が無くて不便というだけではなく、共通の基準で製品を評価することが難しくなります。
「うちは他社にないこんな機能がありますよ!」というのは確かに売りではあります。
しかし通信品質やセキュリティについて、何を裏付けに良い機能・サービスなのか判断するのは素人には難しいところです。
「こういうルールに則って作っているから大丈夫」という、みんながわかるルールを基準にすれば、ルールさえ知っていればそれを判断することができます。
IEEEはアメリカの団体ですが、世界中に会員がおり、「世界標準規格」といっても過言ではありません。主要なメーカーは概ねこの規格に準拠して製品やサービスを提供します。
ただ標準規格のルールを守らないメーカーが無いわけではありません。
代表格はMicrosoftでしょう。
全部が全部守っていないわけではないですが、Microsoft独自規格がIEEE以外にも標準化規格と異なることはこれまでも多々ありました。
Microsoftくらいの規模だと、「俺がルールだ。互換性とは周りが自分に合わせることだ。」くらいのスタンスで臨んでも、ルール違反で市場から締め出されるリスクより周辺メーカーが追従してくるメリットのほうが大きい場合があります。
802=LANの規格を定める委員会
次の単語は「802」ですが、これはIEEEの中でLANの規格を検討する員会の名前です。
1980年2月に検討を開始したことから「’80年2月」で「802」というわけです。
多くのネットワーク規格はIEEE802の規格に準拠しています。
ネットワーク系の勉強をする際に出てくる単語はほぼ全て網羅されています。
11=無線LANの規格
IEEE802の中にはさらにイーサネットやBluetooth等、より細かい技術単位にワーキンググループが存在しています。
未採番や解散したものを含めて22のワーキンググループが設置されています。
その中で無線LANの規格は11番目のワーキンググループになります。
つまり「IEEE802.11」とは「通信・電子・情報処理の標準化団体のLANの規格を定める委員会の中の無線LANのワーキンググループ」のこと、およびそのワーキンググループが決めた規格のことなのです。
IEEE802.11●の種類
伝送規格と周波数
IEEE802.11で定められた規格は、大まかに分けると伝送規格とそれ以外に分類されます。
伝送規格とは、どの周波数帯を使って、どの技術を用いて通信を行うかを定めたものです。
無線LANが通信を行うために利用しているのは電波です。
電波の利用は法律(電波法)で厳格に規制されています。
各自が好き勝手に電波を飛ばしていたら混線は避けられません。
電波法は周波数毎に利用用途を分け、利用に際して免許を交付する、電波の道路交通法みたいなものです。
日本で無線LANが主に使う周波数は2.4GHz帯と5GHz帯の2種類です。
2.4GHz帯は免許不要な周波数帯で、数多くの機器で利用されています。
無線LAN使用するのにわざわざ免許らなきゃいけないのはめんどくさいですもんね。
無線LAN以外にもBluetoothや家電製品で2.4GHz帯が使用されています。
あと通信のためではないのですが、電子レンジのマイクロ波も2.4GHz帯です。
同じ周波数帯内では他の電波との混線が起きます。
2.4GHz帯を利用する無線LANが他の電波による影響=電波干渉を受けやすいのはそのためです。
ただ2.4GHz帯は電波は波長が長いため、障害物を回避することができたり、遠くまで届くというメリットがあります。
5GHz帯も免許不要なのですが、一部屋外利用に規制があります。
これは気象レーダーが同じ5GHzの周波数帯を利用しているためです。
気象レーダーの電波を妨害してしまうと、天気予報の正確性に影響が出ます。
そのため公衆無線LAN(所謂Wi-fiスポット)は基本的に2.4GHzの周波数になっています。
逆に5GHz帯は気象レーダー以外で身近な製品で利用されていない周波数帯です。
そのため電波干渉が少なく、通信が安定するというメリットがあります。
しかし5GHz帯は電波の波長が短く、障害物に弱く、遠くまで届かないというデメリットもあります。
2.4GHz帯を利用する伝送規格には11b、11gがあります。
5GHz帯を利用する伝送規格には11aがあります。
11g/11aを束ねて使うことで高速化できる11n
11nという規格は少し特殊です。周波数としては2.4GHz、5GHzのどちらにも対応しています。
11nはそれ単独の伝送規格というより、他の規格を束ねることでより高速な通信を提供する規格です。
「他の規格を束ねる」というのはどういうことか。
2.4GHz帯も5GHz帯も、「帯」というだけあってある程度の幅があります。
この幅を20MHz毎に区切ったものが「チャネル」という単位です。
2.4GHz帯のチャネル数は13(11bのみ14)、5GHz帯のチャネル数は19を無線LANが使うことができます。
ちなみに2.4GHz帯のチャネルは隣り合うチャネル同士が重複しています。2.4GHz帯が電波干渉に弱い原因がここにもあります。異なるチャネルの電波であっても重複する周波数を利用することがあります。5GHz帯のチャネルは重複が無いので電波干渉しにくいのです。
11g、11aは通信時にこのチャネルを1つだけ使います。1つの周波数帯だけですから伝送データ量にも限りがあります。
11nは2.4GHz帯の場合11gの、5GHz帯の場合11aの隣り合うチャネルを2個束ねて使うことができます。これを「チャネルボンディング」と言います。
20MHz×2ですから、理屈としては伝送スピードは2倍になります。
また、周波数帯だけではなくアンテナも束ねて使うことができます。
無線APのアンテナ2本と無線子機の内蔵アンテナ2本が相互に通信しながら、伝送路としては1つとして扱うことができます。これを「MIMO (Multiple Input Multiple Output) 」といいます。理屈としては伝送スピードは2倍になります。
11nでは最大で無線APアンテナ4本×内蔵アンテナ4本の「4×4」まで対応しており、理論上4倍のスピードが出ることになります。
チャネルボンディングもMIMOも、無線APと無線子機の双方が対応していてはじめて成立する方法です。
また、伝送速度は速くなりますが、2.4GHzのチャネルボンディングは20MHzの時よりさらに電波干渉を受けやすくなるため、機器によってはサポートしていない場合もあります。
5GHz帯の高速規格11ac
11nの発想をさらに拡大したのが11acです。周波数は5GHz帯のみですが、先ほどのチャネルボンディングで束ねられるチャネル数は8個になりました。理屈としては11aと比較して伝送スピードは8倍になります。
さらにMIMOの対応アンテナ数も「8×8」なので、アンテナが全て対応できる前提ですがこちらも伝送スピードが11aの8倍になります。
伝送規格以外の規格
ちなみに上記の伝送規格以外にもIEEE802.11に定義されている主な規格は以下の通りです。
11d:電場規格が異なる国間の異動の場合の手続き
11i:前回紹介したセキュリティの規格
11j:日本の電波法に適合させるための仕様
ちなみに11jのjはJapanのjではなく、ただの偶然だそうです。
これらを踏まえてトラブル対応に挑む
規格を知らずに戦えない
何度も言っている通り、私はネットワーク関連が苦手です。
今回纏めたIEEE802.11関連の規格も、トラブル対応を通じて調べたものです。
いくら勘を働かせたところで、基本的な規格や仕様を知らずに障害調査はできません。
今回お話したのは基本的な内容と調査に必要だった個所についてです。
もっと体系的で細かい説明は他所に譲りますが、最低限これらの知識を踏まえた上で、次回はトラブル対応の続きをお話したいと思います。
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