コロナ禍での中小企業テレワーク(主に在宅勤務)検討事例の紹介|コロナ禍と情シス

コロナ禍での中小企業テレワーク(主に在宅勤務)検討事例の紹介|コロナ禍と情シス





<※本記事は2020年3月2日に作成しています。以降に発生した事象との整合が取れない点が出てくる可能性がありますが、ご容赦ください。>

日本全国コロナウイルス禍が吹き荒れて、マスクもティッシュも店頭から消えていきました。オフィスでもペーパーレスも叫ばれても紙が好きで紙が無くなることを不安視する向きがありますが、紙好きは日本人の本能なのでしょうか。多分関係ないけど。
小中高一斉休校の通知により子供たちは長い春休みに入りましたが、大人たちの世界では時差出勤やサテライトオフィスに加えて子供の監護のための在宅勤務のニーズが上昇することになりました。

情シスは「テレワークを利用する側」である前に「テレワークの仕組みを考える側」であり、運用サポートのため現段階では全然テレワークできないのですが、仕組みを考える上で検討した経験をご紹介したいと思います。同様の取り組みを検討している企業の参考になれば幸いです。

尚、本記事においてはコロナウイルス自体の影響、それに付随する社会的影響や政府判断等の是非を論じることは極力行いません。対応が必要な事象が発生した以上、批判や賛同だけでは物事は進みません。その環境下での業務を継続する術を考えなければいけないのです。

テレワーク検討の経緯

弊社の基本情報

今回のコロナ禍が発生する以前からの弊社の基本的な情報は以下のような感じです。守秘事項もあるので全て紹介できない点はご容赦ください。

会社規模等

地方中小企業で社員数は100名以上500名以下。本社地区以外にいくつかの拠点・営業所あり。業態としては製造業系で営業職、設計職、製造職、事務職が在籍。

地域

2/28時点でコロナウイルス感染者が確認されていない。首都圏と比べると危機感はまだあまり高くない。

パソコン

95%がノートパソコン or 2in1パソコンでデスクトップは5%くらい。ちなみに全台Windows10。社員の90%は1人1台パソコンが支給されており、残りの10%は特定のソフト利用のための共用PC。

ネットワーク

インターネットから社内ネットワークへのVPN接続は行っていない。

モバイル

社員の80%はスマートフォンを支給していてテザリング可能。残りの20%は対外的な通話頻度が少ないため所属共用の携帯を利用している。ごく少数だがタブレットもある。

ストレージ

主な業務資料は社内ネットワーク内のファイルサーバに格納している。クラウドストレージとしてGSuiteのGoogleドライブがある。

テレワーク実績

営業職社員が出先でスマートフォンでメールを確認したり、社有パソコンをスマホのテザリングで繋いだりするモバイルワークを実施している。活用しているのは全社員の10~15%くらい。内勤系の社員はPCの社外持ち出し自体ほぼ無い。在宅勤務は開始しておらず、サテライトオフィスも無し。

セキュリティ

パソコン/スマートフォンは資産管理システム/MDMで管理。インターネット接続環境下があれば社外であっても稼働監視や通信遮断等可能。

検討開始の経緯と判断

本格的な検討の発端は2020年2月28日の政府要請による小中高の休校でした。
その前の集会・イベントの自粛要請が出た時点から、「今後どういった通達や制限が発生するかわからないから検討を開始しよう」という話にはなっていました。しかし何が起こるか想定することも困難なため、新規インフラ導入は行わずに現状のインフラでどこまでできるか考えておこうくらいの状態でした。

小中高の休校ということは、日中子供が家にいなければいけない状態が想定されます。緊急の通達ですから学童保育等の手配がすぐにできず、親御さんが家で子供を監護するため出社できなくなる可能性があります。

企業として取りうる選択肢の一つとして対象社員を休業扱いにすることがあります。今回のケースでの休業は休業手当(給与の60%支給が最低ライン)が適用されますが、本人としても給与が減り、会社としても働き手が減ってしまいます。日数が少なければ有給休暇で凌ぐことも可能ですが、発表されている休校期間は春休み明けまでの1か月超。臨時の学童保育等の整備が急ピッチで進んだとしても数日で預けられるようになるとは考えにくく、労使双方にとって先行きが不透明な状況です。

そこで在宅勤務という選択が出てきます。社員側は家で子供を監護しながら業務継続することで収入を維持でき、企業側も働き手の減少を防ぐことができます。もちろん在宅勤務さえすれば全てが解決するわけではありません。子供の面倒を見ながらリモート環境で社内にいるときと同じ業務内容・業務量を行うことは困難です。しかし完全に休んでしまえば稼働ゼロになのですから、それと比較すればメリットはあります。

ということで緊急措置としてテレワークでの在宅勤務実施に向けた検討が開始されました。

在宅勤務を行うにあたって本来であれば人事/給与/労務/情シスで多岐にわたって検討しなければいけないことがありますが、今回は緊急措置ということもありかなりの部分で検討を端折りました。端折った部分は本文の最後で紹介します。

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コロナ禍のテレワークで検討したこと

テレワークのスコープを決める

まず決めなければいけないのは、今回の緊急措置でテレワークを行う対象者と業務範囲です。実態は別として、社内に在籍して勤務している人から見て、在宅勤務のほうが楽(通勤時間が無い、終始拘束されない等)に映り、「あの人がやるなら私も在宅勤務したい!」という声が出てくる可能性があります。

しかし現時点では多数の人が在宅勤務するには制度もインフラも不十分です。あくまでコロナ禍の影響でどうしても在宅勤務しなければいけない人のみを対象とするため、対象者を「小中高の長期休校により家庭で子どもを監護しなくてはいけなくなった社員」にしました。

現時点で感染者が報告されていない地域のため、濃厚接触の疑いによる自宅待機は発生していません。仮に感染が拡大して罹患者や濃厚接触者が発生した場合、対象となる範囲が想定できないため今回の検討からは除外しました。
また業務内容について、製造職で生産ラインにいないことには仕事にならない場合も除外しました。

この時点でスコープは「自宅で子どもの監護が必要な営業・設計・事務職が行う在宅勤務」となりました。

テレワークで利用できる現行のインフラを確認する

パソコンは持ち出せるのか

次に対象者が在宅勤務を行うにあたって必要なものを考えていきます。紙での業務や生産ラインでの作業がメインでない限り、パソコンはほぼ必須になります。資産管理システムはインターネットに接続できればどこでも管理可能なので、基本方針は現在社内で支給しているパソコンを持ち帰ることになりました。

営業職は日ごろから出先の利用を想定しているので特に問題ありません。
設計職の場合は一人一台パソコンが割り当たっていてノートパソコンを利用している人は、設計用の専用有償ソフトのインストールが必要なためパソコンだけ別途支給しても業務継続が難しいことから、社内で利用しているパソコンをセキュリティワイヤーごと持ち帰ってもらうことにしました。
デスクトップパソコンや共用パソコンは持ち帰れないので、貸与可能なノートパソコンでできる範囲の業務を継続してもらう or 休業 or 有給休暇を所属で検討してもらうことにしました。

インターネットにどうやって接続するか


社内ネットワークには接続できませんが、GSuiteを利用しているのでインターネット環境さえあればGmailでのメール授受やGoogleドライブでの資源の共有は可能です。

問題はどうやってインターネットに接続するかです。

家庭で契約しているインターネット回線はどのようなセキュリティ対策が行われているか詳細に確認することが困難です。そのため基本方針は会社が貸与したスマートフォンのテザリングを使用することとしました。
個人契約のスマートフォンのテザリングと会社が貸与したスマートフォンのテザリングのセキュリティレベルの違いがあるかという問題ではなく、「決められた方法以外でのインターネット接続を行わせない」ことを目的としたルールです。

しかし前述の基本情報にあるように、全ての社員がスマートフォンのテザリングが利用できるわけではありません。インターネット接続手段の無い社員は在宅勤務から除外せざるをえなくなります。

コミュニケーション手段は確保できるか

テレワークと言えばWeb会議を思い浮かべることが多いかもしれません。
GSuiteがあるのでGoogleMeet(旧HangoutsMeet)が使えますが、そもそもカメラとWebカメラが無いことにはWeb会議になりません。スマートフォンのアプリのMeetを使う手もありますが、資料や画面を共有するには不向きです。
2in1ノートはマイク・Webカメラ内蔵のものも多いですが、通常のノートパソコンの場合調達時の必須条件にはしていなかったのでたまたま付いている機種がある程度でした。

しかし在宅勤務の場合、1対1でのコミュニケーションであれば無理にWeb会議に拘らなくても、電話やメールでもコミュニケーションが取れないことはありません。大人数の会議であればMeetで聴講形式で参加し、発言や伝達事項は個別に電話等で伝えることも可能です。

特に今回は緊急措置なので、Web会議の実施は必要条件からは除外しました。

テレワーク対象者の業務遂行方法を考える

できることとできないことを整理する


インフラ面は上記のように整理した結果、できることとできないことが出てきます。
まずVPNでの社内ネットワークへの接続環境が無いので、社内設置のシステムやクラウドでもIPアドレス制限をしているシステム等には接続できません。

また郵送物の授受、現金の取り扱い、紙で行っている決裁の承認行為等デジタルで行われていない業務はそもそもテレワークできません。
電子決裁などデジタル化を進めたとしても、どうしても残る業務はありますし、そもそも未だ過渡期という企業も多い状況です。そしてこうした業務を最も行っているのが総務・経理などの事務系の社員です。

総務・経理系の社員の数はどうしても他の職種に比べて少ない傾向があり、どうしても休まなければいけない場合に残ったメンバーで分担するにも限度があります。全部はできないまでも何であればテレワークが可能なのかを考え、引き取ることで少しでも負荷軽減になる方法を考えることも必要です。

社内在席者との連携でカバーする


ここまで在宅勤務者を中心に話を進めてきましたが、在宅勤務者が業務を行うためには社内在席者との連携が不可欠です。例えば社内ネットワークに接続できないのでファイルサーバの資源をクラウドストレージにアップロードしてもらったり、編集したファイルを戻したり、印刷を依頼するなどのことが想定されます。前述のようなテレワークできない業務全般は代行してもらうしかありません。そうなると社内在席者の負荷も否応なく上がります。

在宅勤務の対象者の人数や業務内容、社内在席者の人数・負荷状況等から一律の判断にはできないため、在宅勤務希望者が発生した所属の状況によって判断しようということになりました。

テレワークの申請方法を決める

在宅勤務の実施を勝手に所属で決められたり、情シスが決定過程に入っていなかったりすると、トラブル発生時の対処に大きく時間を取られることになります。
緊急措置とはいえ、所属の承認、部門長の承認、人事・総務・情シスでの情報共有と承認を経て在宅勤務に入るように、簡略な手順でもいいのでルールは作って周知する必要があります。

これらの検討が整って初めて全社に向けて在宅勤務の希望者を募るに至るのですが、何せ木曜の夜に言われて月曜には学校が休みになるので検討はかなり短期間で詰める必要がありました。現段階では希望者は数名程度で現行インフラでもなんとか持ちこたえられそうな状態です。

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緊急措置なので一旦端折ったこと

冒頭でも「いくつか端折った」とお話ししましたが、ここからは端折ったところをご紹介していきます。検討した内容でお話ししたことの裏返しの話もありますが、いくつかご紹介していきます。

設置場所のセキュリティ確保


社内のパソコンを持ち出すことになるため、持ち出し申請や社外設置時のセキュリティ確保(盗難・紛失対策、データの抜き取り・盗み見対策)は重要になります。

今回の実施スコープは「自宅で子どもの監護が必要な営業・設計・事務職が行う在宅勤務」限定のため設置場所は基本的に自宅内であり、基本的に不特定多数の人が出入りできる場所ではありません。そのため秘匿性確保に関する要件は一旦簡素化し、設置場所が自宅であることの確認とセキュリティワイヤー等の盗難・紛失に対する対策は設置状況を携帯で撮影した写真の確認とする方針としました。

もちろんこれが100%のセキュリティ対策であるとは言い切れません。個人情報を含むデータは在宅勤務者には取り扱わせなかったり、パソコンの暗号化やパソコンの稼働・通信データ監視等の対策があってこそ簡素化が可能になります。
それらを行うインフラが十分整備できていなかったり、業務遂行上秘匿性の高いデータを取り扱う必要があるのであれば、在宅勤務の選択は困難になるでしょう。

また内部統制上の危惧としてパソコンを持ち帰った社員が第三者に情報を見せる等の懸念もありますが、この点に関しても通常の守秘義務の範囲に含まれることとして別途書面や規定を作成することは端折りました。

在宅勤務者の勤務状況の確認

会社の就業規則には勤務開始時間・終了時間等の記述があります。本検討を開始するまで在宅勤務制度が無かったため、それらを考慮した規則になっていないのです。

本来であれ開始終了時間ではなくPCの稼働状況や成果物等から稼働実績を取るなどの仕組みと、それを以て勤務とみなす規則の整備が必要になりますが、今回は緊急措置のため勤務時間数の詳細な確認は放棄して、成果物及び作業スケジュールの明確化と日報での報告を義務付けることまでにしました。

これについて最終的な決定権は情シスにはありませんが、在宅勤務を検討する上で本来は重要な事項です。社会的にも拘束時間ではなく成果で評価すべきという流れになってきているとはいえ、多くの会社に就業規則があり、フレックス制度があってもコアタイムがあり、遅刻・早退・欠勤についての規定があります。テレワークを希望している人にとっては厄介な制度でも、それを守って働いている在席勤務者にしてみたら「なんであいつらは会社の規則を守らなくてもいいのか」となりかねません。

処遇・評価基準の検討(在席勤務者との差異)


就業規則と似たような話になりますが、「勤務時間ではなく成果で評価」が当然とはいえ、在席勤務者は就業規則に沿った勤務を守り、違反すると罰則があります。それを守るために通勤時間を考慮し、生活リズムを整え、家庭生活との両立まで考慮しているのです。
そこに加えて前述の在宅勤務者のフォローまですることになれば、同じ基準で評価されることに納得がいかない社員も出てくるかもしれません。

それが非効率だからテレワークを促進すべきという意見もありますが、フルリモートが困難な業種・業態・職種・職責はいくらでもあります。それらが社内に混在した時に、双方に公平な処遇・評価制度にすることはなかなか容易ではありません。

今回は(現時点では)期間を限定した緊急措置のため、一律の加点・減点等は想定していませんが、恒常的な制度にする上で検討しなければいけないことになります。

モバイルデータ通信量(料)増加対策


制度的な話から一転してITの話になりますが、今回インターネット接続手段としてモバイルのテザリングを使用することにしました。これは対象者が少ないから許容できた事で、対象者が増えればモバイルデータ通信量が一気に増加し、それに伴う通信費も跳ね上がります。

本来であればモバイルルーターを契約したり等の対応が良いかもしれません。

今できること、自社でできることを考える


短期間に詰め込みで色んな事を考えたせいもあって、家に帰ってからも「将来的にVDIにして端末は全部シンクライアント化すれば」等考えを巡らせていました。
しかしいきなり明日からVDIが稼働できるわけではありませんし、そもそもこうした緊急時以外の利用に対してVDIで費用対効果が出るかといわれるとかなり怪しいとも言えます。

緊急時は緊急時で、平常時は平常時で、今できること、自社でできることを考えていきましょう。今回の一件で平常時のテレワークについても検討が進むかもしれませんが、今はまず目の前の危機を乗り越えられるようがんばっていきましょう。

 

 

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