クラウド、モバイル -DXを実現するデジタル技術:中編 – | DXとは何か




対象とする読者
・クラウドやモバイルを使うと何がどうなるかよくわからない人。
・クラウドやモバイルが何故DXになるのか知りたい人。
話の要点
クラウド:インターネットを介してサービス利用すること。システムインフラのお守りをしなくてよくなるし、いつでもどこからでも利用できる。キーワードはノンカスタマイズベストプラクティス業務をシステムに合わせる
モバイル:スマホやタブレットはインターネットの主役。SNSとの親和性も高く、インターネットコンテンツはモバイル優先になっていくだろう。

デジタルトランスフォーメーション(以下DX)について、4つのセクションに分けてDXについて説明している「DXとは何か」。

1.DXの概要
2.企業が取り組むDX施策
3.DXを実現するデジタル技術の紹介
4.失敗するDXの取り組み方と現実的な提言

今回は3つめのテーマから「クラウド」と「モバイル」を取り上げます。

「DXとは何か」の他の記事はこちらからご覧ください。

AIやIoTと比べると比較的身近なテクノロジーなのではないかと思います。
だからこそ「今さらそれとDXってどう繋がるの?」という感じを受けるかもしれません。
今回はその辺りをお話ししていきたいと思います。

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クラウドとDX

「所有」から「利用」へ

クラウドコンピューティング(以下クラウド)とは、狭義ではインターネット等ネットワークを介して離れた場所のマシンリソースを利用することです。広く使われているクラウドとは、インターネットを介して利用する形態のサービスを指します。
これまで各企業が独自に「所有」していたシステムは、インターネットを通じて「利用」する形態に移行しています。

AWSやGCPなどのプラットフォームから、ERPならSAP、CRMならSalesforceというようなエンタープライズアプリケーション、Office365やGSuiteのようなグループウェア・オフィススイートまで様々なサービスが展開されています。

所謂サブスクリプション型という提供方式とセットであることが多く、様々な「〇〇 as a Service」が乱立しています。

クラウドのメリット・デメリット

クラウドのメリット

自社所有(オンプレミス)と比較したクラウドのメリットは以下のような点です。

・立ち上げの速さ、初期投資の少なさ

サーバーやミドルウェア、パッケージライセンスの購入・構築などシステム導入に係るインフラへの投資と時間を一気に圧縮できます。
多くの場合サブスクリプション型での契約となるため、投資に対する回収のために減価償却が終わるまで使い続けるという制約が無く、手軽に乗り換えることも可能です。

・維持管理コストの低減

可用性確保のためのバックアップ装置やハードメンテナンス、クライアント環境の変化や法令・制度の変更に伴うアプリケーション改修といったシステム稼働を継続するための維持管理を、全てサービス側が請け負ってくれます。
利用者は常に最新化されたアプリケーションを利用することができます。
運用保守にかかっていた時間とコストを、新たなビジネスに振り向けることができます。

サブスクリプションを長期間利用した場合、トータルコストでオンプレミスに劣るという指摘もありますが、InternetExplorerでしか動作保証しないようなシステムを使い続けた結果、IEの提供が終了する等のリスクが顕在化した時のコストは計り知れません。
こうした問題を「技術的負債」と呼びます。
実際Windows7からWindows10に切り替える際に、どれだけの社内システムの動作評価を行い、OSやOfficeのバージョンアップ対応にどれだけの費用を費やしましたか?
オンプレミスのランニングコストが安いと感じるのは、単に放置している=塩漬けにしているからではないでしょうか。

・いつでも、どこでも利用できる

インターネットを介した提供ということは、インターネットに接続できさえすれば、いつでもどこからでも利用することができます。
社内ネットワーク内でしか利用できないので帰社して作業したり、紙資料を打ち出して持っていったりというような必要はありません。

クラウドのデメリット

デメリットとしては以下のような点でしょう。

・ネットワークがボトルネック

クラウドサービスの多くはインターネットを経由して利用することになります。
閉域網から直接パブリッククラウドに接続するサービスもありますが、イントラネットワークだけ注視しておけばいいオンプレミスと比べると、イントラ外も含めて経路上のネットワーク全てがボトルネックとなりうるというのがクラウドの弱点です。

サービスそのものは正常に稼働しているけど、プロバイダの障害や回線の混雑・遅延などによりレスポンスが悪化したり、接続できないことも発生します。
Office365やGSuiteのようなグループウェアだと全社員が日常的にインターネットアクセスを行うことになり、現状のネットワーク構成で負荷に耐えきれるか検討しておく必要があります。

・トラブル発生時は復旧を待つしかない

2019年8月23日に発生したAWS東京リージョンの障害や2019年11月23日のQTnetデータセンターの電源障害等、クラウド環境の障害は各所で大きな影響を及ぼしました。
可用性に関して高い信頼を売りにしていたため、クラウドシフトに水を差したとも言われます。

だからといってオンプレのシステムがダウンしないわけでもなく、そちらのほうが復旧が早いとも言い切れません。
システムの可用性を確保するにはそれ相応のコストが必要になります。
クラウドサービスは保証される可用性に対して係るコストがオンプレミスより低いと言うことはできます。

しかし結局、問題が起こった時に利用者ができることは、復旧を待つことだけです。
これを理解した上で利用しないと、「クラウドは絶対に止まらない」ということは決して無いのです。
業務インパクト云々もありますが、止まった時に素直に諦められるか、気持ち的に割り切れる心構えしておくこともある意味重要かもしれません。

・クラウドセキュリティの考慮

いつでも、どこからでも繋がるということは、外部からの攻撃の危険に晒されているとも言えます。
外部セキュリティだけではなく、社員による私有デバイスからの利用等内部からのセキュリティも考慮が必要です。

顧客情報や原価情報など、外部に流出させてはいけないものをインターネット上で運用することに抵抗がある方もいるでしょうが、ゼロトラストネットワークの流れからすると「いかにしてセキュリティを確保してインターネットを利用するか」を考えることが不可欠になっています。

クラウド利用による業務効率化と「2025年の崖」

クラウドサービスの利用により、業務プロセスをサービスに合わせて見直すことで効率化を図ることができます。
ここが重要なポイントであるのと同時に、日本企業が最も不得意なところです。

代表的な事例が基幹システムです。「10年塩漬けの基幹システム」は自社の業務プロセスに合わせて構築されたオーダーメイドであるのに対して、クラウドサービスはサービス提供型のためカスタマイズを前提とせず、サービスが提示する所謂「ベストプラクティス」に基づく手順にプロセスを変えて初めて効率化を実現できます。
カスタマイズを認めるシステムもありますが、その部分は継続的な自動アップグレードからは取り残され、次期システムへの切替の際にお荷物になる可能性が高いです。

 

例えるなら、これまでどこへ行くのもタクシーを呼んで乗っていた人に電車やバスを利用するよう促すようなものです。

タクシーは電話すれば時間を問わず今自分がいるところまで来てくれて、目的地までDoor to Doorで運んでくれます。しかしコストは高いです。

電車やバスは、駅やバス停まで移動して、時刻表の時間まで待たなければいけません。降車場所も目的地の目の前とは限らないのでさらに移動しなければならず、手間も時間もかかります。しかしコストは安いです。

業務効率を下げないような効率的な電車やバスの使い方(=ベストプラクティス)を身に着ければ、同じ業務を安いコスト(=高い生産性)で行うことができます。
また電車やバスの交通費を精算する際に、乗降駅から運賃はわかりますから費用の透明性(=業務手順の見える化)も確保できます。同じ場所なら誰が行こうが同じ時間、同じコストで辿りつくことができるのです。

にもかかわらず日本の多くの人(=企業)は100メートル先だろうが100キロ先だろうがタクシーを使い続けています。
タクシーに慣れた人にとって、電車やバスは融通が利かず利便性が低下するいう感覚があり、二言目には「うちの働き方(=業務プロセス)は特殊だから」と言ってタクシーを降りようとしません。
仮に乗り換えたとしても、バス停の無いところで乗降を行おうとしたりして本来得られる恩恵を受けられず、ただただ不便を感じるだけになり結局タクシーに戻っていくのです。

その結果、コストは高止まりしたまま、タクシーがすぐ来てくれるので行動に計画性が無く、同じ場所に行くのに人によって費用も時間もバラバラという状態が放置され、本当に業務で利用したかどうかわからない領収書が混在しても誰もわからないような無秩序なプロセスがまかり通ってしまうのです。

言わずもがな、塩漬けの基幹システム=タクシー、クラウドサービス=電車やバスです。
このような状況に対して、「さっさとタクシーから降りて電車やバスを使え!さもないと数年後にお前の生活は破たんするぞ!」と警鐘を鳴らしたのが「2025年の崖」というレポートの本質だと私は解釈しています。

実際その頃には、日頃呼んでたタクシー会社(=既存システムを提供しているSIer)はUber(=デジタル・ディスラプター)に駆逐され、呼びたくても呼べなくなるかもしれません。

モバイルとDX

もはやパソコンの時代ではない

学生時代からインターネットやパソコンのある生活環境の中で育ってきた世代を「デジタルネイティブ」と呼びますが、この世代は「モバイルネイティブ」でもあり、かくいう私もその世代です。

中・高校生の時にポケベル→PHS→携帯電話(第2世代)と持ち替えながら友達とコミュニケーションを取り、大学時代は下り最大256Kbpsのカード型PHSでインターネットにアクセスしながらiPod(後にiPod touchを経てiPhone)で音楽を聞いていました。
社会に出てからはiPhone 3Gという黒船来襲(とビッグウェーブさん)を目撃し、現在は5Gの到来を目の当たりにしようとしています。

こうして一息に書くと、わずか20年程前まで文字情報をやり取りするのがやっとだったモバイル環境は、インターネットと接続することで動画や音楽を楽しんだりビデオ通話やチャット等様々なコミュニケーションを提供したりと飛躍的に進化を遂げたことがわかります。
インターネットサイトのアクセスにおけるモバイル(スマートフォン・タブレット)の占める割合は既にパソコンを超えており60%を上回るという調査もあります。恐らく今後さらに割合は高まるのではないでしょうか。
プログラミング・CG制作・CADなど、モノを「作る」場面ではパソコンの出番はまだあるでしょう。しかし「利用する」という観点からすると、もはやパソコンの時代では無いのかもしれません。

「いつでも、どこからでも」を加速させる5G

先ほどのクラウドでも「いつでも、どこからでも」というフレーズを使いましたが、これを実現する技術の一つがモバイルネットワークです。

スマートフォンやタブレットといったモバイルデバイスも重要ですが、その通信を支えるモバイルネットワークの発達なくしてモバイルの発展はありません。
多くのWebコンテンツは静的なテキストコンテンツから動的なコンテンツへと移行していっています。
単に動画や音楽を見るだけではなく、Webサイトのメニュー表示やページ遷移など、あらゆるユーザーインターフェース(UI)は動的に進化しています。

しかし動的コンテンツはテキストコンテンツと比較するとファイルサイズが大きいため、通信速度が遅い環境では描画を遅延させてしまい快適性が損なわれる可能性もあります。
クラウドサービスをモバイルから利用できるようになったとしても、その操作に時間がかかってしまっては逆にストレスになりかねません。

IoTのようなネットワークデバイスの増加や動画などのリッチコンテンツの流通により、既存のモバイルネットワークは膨大なトラフィックを支えきれなくなる可能性があります。
そこでより大容量・低遅延のモバイル通信規格として注目されているのが5Gです。

単純に言えば「モバイル通信が今よりもっと速くなる」なのですが、これによりモバイルコンテンツの可能性はさらに大きくなります。
これまで扱えなかったような大容量データや、リアルタイムで高品質な映像の授受が可能になり、コンテンツの質をさらに向上させることができるのです。

ソーシャルメディアとの親和性

モバイルで多くの人が利用しているサービスとしてSNSがあります。
SNSはもはや個人と個人が繋がるためのコミュニケーションツールの域を超え、一つのメディアとして大きな市場になっています。

多くの利用者はスマートフォンからSNSをチェックしたり、投稿を行っています。
手軽さ、即時性、写真や動画を撮影して直接投稿できる等、SNSはモバイルと非常に親和性が高いサービスです。

多くのコンテンツがモバイル重視、SNS重視の提供形態を取り始めています。
わかりやすいのが「インスタ映え」です。
写真などのビジュアライズされた情報に特徴を持つSNS・Instagramにおいて、文字情報よりも画像によるインプレッションが重要になっているということがこの言葉からもわかります。

またこれまで企業から市場に一方的に情報流していたのが、SNSによって双方向のコミュニケーションが可能になったことも大きなブレイクスルーです。

企業のコンテンツや商品がいかに市場での露出を増やせるか、モバイルやSNSが大きな鍵を握るようになってきているのです。

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AI・IoTとの関連

それぞれが単独で機能しているわけではない

前回の記事で紹介したAIやIoTと今回のクラウドやモバイルは、技術としては別のものですが、サービスとしては単体で提供されるよりも、幾つかの要素が重なってサービスを形成しています。

クラウドで提供されているサービスのバックグラウンドにはAIが動作しており、ユーザーの行動を推測したり、登録されたデータを分析したりしています。
IoTとモバイルはデバイスとネットワークという切っても切れない関係です。
またモバイルネットワークからのクラウドサービス利用というのも重要な要素です。

技術が相互に重なり合いながら新たなサービスとして提供されているのです。

テクノロジーで価値を提供するDX、テクノロジーを利用するDX

デジタル・ディスラプターの多くはこうしたデジタルテクノロジーを使ってサービスを構築しています。
クラウド上でAIを組み込んだサービスを構築して提供することで新たな価値を産みだすことだけがDXではありません。
クラウドやモバイルの既存サービスをうまく利用して自社の業務効率を高めたり、別記事で紹介する予定のデータ活用により経営判断の指針にすることもDXと呼んでよいと思います。

以前の記事でも紹介したように、DXの大きな目的は「これまで人間にしかできないとされていたようなことや、大きなコストをかけて実現してきたことをテクノロジーで解決することで、これまでに無い高い生産性を実現する」ことです。
デジタル技術を使った新たな事業を立ち上げる攻めのDXも、業務効率や意思決定のスピードを向上させて高い生産性を実現する守りのDXもあるのです。
(「攻めのDX」「守りのDX」はこちらの記事に詳しく紹介しています。)

どちらを目指すにしても、テクノロジーに対する基本的な知識や目指すべき姿を持たなければ意味がありません。
ただデジタル技術を使いさえすればDXが達成できるわけではないのです。

 

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