可用性、性能・拡張性から見たGSuite | 非機能要件で見るGSuite(1)
移行性から見たGSuiteのメリット | 非機能要件で見るGSuite(2)
移行性から見たGSuiteのデメリット | 非機能要件で見るGSuite(3)
セキュリティ、システム環境・エコから見たGSuite | 非機能要件で見るGSuite(4)
前回までのおさらい
前回までGSuiteを非機能要件の面からメリット/デメリットを検討してきました。
今回は総括として、他のサービスとGSuiteの比較を踏まえた上で、ITのユーザーシフトについてお話していきたいと思います。
他のサービスとの比較
比較すべきはOffice365よりサイボウズOffice?
GSuiteと比較対象としてよく名前が出てくるのがOffice365になるかと思います。
Office365もGSuite同様にOneDrive(インターネットストレージ)、Skype(Webミーティング)、Exchenge(Webメール・スケジュール)、Teams(グループチャット)と、オンラインで様々なサービスを提供しています。
特にSkypeはテレカンファレンスの定番ツールとしてビジネス利用も定着しています。
しかしOffice365の最大の強みは「サブスクリプションでOfficeが使えること」ではないでしょうか。
自動アップデートによって自動計算やExcelVBAが大量に入ったExcelファイルの壊滅を恐れてOfficeについては従来のボリュームライセンスへ舵を切った企業にとって、グループウェア機能としてだけOffice365を利用することは、Officeライセンスを二重に支払うことになります。
グループウェア機能のみを提供するサービスも存在しますが、Officeと別途サブスクリプションを調達する必要があり、その場合オールインワンサービスであるGSuiteと同じ土俵で比較すべきかはなんとも言えないところはあります。
Officeを切り離して見たときに、GSuiteと比較すべき相手はサイボウズOfficeではないでしょうか。言わずと知れた国産グループウェアの老舗です。
どちらもクラウド(サイボウズOfficeはオンプレ版あり)である点では非機能要件のメリット/デメリットでは重複するところも多くなります。
大きな違いとしてはサイボウズOfficeにはワークフローが標準機能として存在することと、サイボウズOfficeの操作性を事前に理解している利用者が少ないこと、そのかわりにマニュアル等のサポートページが充実していることが挙げられます。
現時点での国内シェアはサイボウズOfficeに軍配が上がります。これはクラウド化される以前からサイボウズ自体がグループウェアとして日本企業に深く浸透してきたことにも起因していると考えられます。
さらに言えばサイボウズは国内ビジネス慣習をシステムに反映しており、「痒いところに手が届く」サービスを提供していることも挙げられます。
それと比較してGSuiteの優位性はなんなのでしょうか。
クローズドな利便性<オープンな利便性
GSuiteの優位性は「立ち上げの速さ」に尽きると思います。
それはサービス導入の立ち上げだけではなく、例えば新規採用者に対する教育をどこまで行うかといった点も含みます。
中途採用者で前職でもサイボウズを利用していたことがある人にとってはサイボウズOfficeを使いこなすことは何の問題もないでしょう。
しかしそうでない人や新卒採用の新人にとってはゼロからのスタートになり、ある程度の教育が必要になります。
GSuiteの場合、無料のGoogleサービスを使ったことがあれば、ローカルルール以外の操作性等について改めて教育をする必要はありません。
そしてそのような人の数は今後増加していくことが想定されます。
新卒採用の場合も、GSuiteには学校などの教育現場用のエディションもあるため「学校でも使っていた」という新人も増えていくでしょう。
GSuiteはGoogleがインターネットを利用したサービスインフラを拡充させていくほどに、利用のハードルが下がるサービスなのです。そこがオープンサービスであるGoogleの最大の強みです。
Google検索が検索エンジンとしてのシェアを確固たるものにしてきたように、GmailやGoogleドライブもそのシェアを広げていっており、特別な訓練無しにGSuiteが使いこなせるようになるのも遠い話ではなくなるかもしれない、というのがGSuite最大のメリットではないでしょうか。
ITのユーザーシフトについて
クラウドサービスの登場によるITの変革
最後に「ITのユーザーシフト」についてお話していきたいと思います。
GSuiteに限らず多くのクラウドサービスが当然のように提供されるようになり、IT利用のハードル自体は下がりました。
これまで高額なハードやインフラ、ソフトウェアライセンスを調達しないとはじめられなかったものが、必要な数のサブスクリプションだけで利用できるようになりました。
それと同時に提供されるサービスは、個々の実情に合わせた個別最適なものから、全体最適な方向へと向かっています。
それ自体はこれまでもパッケージビジネスが行ってきたやり方なのですが、より汎用性の高いサービスになっていっているのです。
その具体的な事例がGSuiteです。GSuiteは汎用的な機能は全て兼ね備えています。
それをどう使いこなすかは個々の利用者や企業など利用者に委ねられています。利活用をサポートするサービスを提供するベンダーやコンサルも多くでてきていますが、本質的には利用者自身が使い方を考えていくサービスなのです。
私自身もITベンダーでシステムを売っていた経験のある人間ですが、システム導入は運用方法を決めていくことに重点が置かれます。極論ですが、利用するシステムがどのように開発され、何の言語で構築されるかなどはどうでもよくて、どのように使うことができ、それによって業務がどう回るかが最大の関心事です。
(だから非機能要件のような話は置いてけぼりにされることが多いのですが。)
SIerはITコンサルとしてシステムを活用した業務最適化を提案し、それに合わせた業務改善とシステムのカスタマイズを検討します。
そのSIerがやっていた部分を取っ払ってしまい、提供されるサービスの使い方をユーザー自身で決めるというのがクラウドサービスの本質であり、クラウドによりもたらされるITの変革なのです。
ユーザー側に求められるITスキルの向上
とはいえこれまでサービスを享受するだけだったユーザー側に、いきなり「自分で決める」のはかなり難しいことかもしれません。
ITの利活用に対する知見、業務に対する知見、テクノロジー全般に関する知見、そしてサービスを導入する環境の把握。これらがそろってはじめて「自分で決める」ことができ、正しい判断を導きだすことができます。
クラウドサービスではありませんが、昨今話題になっているRPAも同じ文脈に属するサービスだと言えるでしょう。
ユーザー自身がロボットに置き換えられる業務を洗い出し、シナリオを構築して、運用管理を行う。これまでSIerが行ってきた作業をユーザー側で行うことで、少ない投資額で大きな効果を産もうとしています。
その効果を生み出すのに必要なのはユーザーがRPAを使いこなすスキルを有することです。
それはシナリオを構築するプログラミング技術だけの話ではありません。
適用できる業務を考える力、適切な運用管理を行うための能力、先々の拡張性を考慮できる思考等、様々なスキルが必要になります。
もちろん提供ベンダーが導入支援としてこれらをサポートしてくれるものもありますが、最終的に自社でこれらを賄えないと本質的な導入効果を得ることはできません。
RPAは短絡的な作業効率化だけではなく、業務を整理する過程自体にも効果があります。
それを「誰かに考えてもらう」のではなく「自分で考えることができる」企業になることが、真の意味での業務効率化になるのです。
ユーザー企業はIT人材を求め始める
SEをはじめITを生業とする人にとって、このITのユーザーシフトは活躍の場を広げるチャンスです。
ユーザー側はSIerに高い金を払うのではなく、自分自身でITを駆使した問題解決を行う方向に舵を切り始めています。それにはITを使いこなす人材が必要となるのです。
そしてそれと比例してSIerの仕事は減っていくことになるのです。
この手の話が空想や暴論と捉えられたクラウド黎明期は過ぎ、いよいよ本格的なクラウドシフト、ユーザーシフトが過熱し始めています。だからこそ多くの人や企業がGSuiteやRPAに興味を持ち始めているのです。
IT技術者の多くは自分が担当している領域のスペシャリストとしてキャリアを進めてきていると思います。ユーザー側のIT担当者、所謂情シスに求められるのは広範囲な技術に関する情報と知識になります。
最初は専門外ことの方が多いですが、元がどんな分野であれ「自分で調べる力」を養った技術者であれば、半年~1年あればほぼキャッチアップできるでしょう。
狭い領域、枯れた技術ばかりを担当して技術者としての「この先」に不安を感じているのであれば、広い領域で新しい技術に触れる機会を得られるチャンスになります。
この辺は別の記事でも詳しく触れています。
別に「SEやるより情シスに転職しよう!」と宣伝したいわけではないのですが、そう言いたくなるくらいユーザー側のIT人材への渇望は高まっているのです。
「働き方改革」の文脈とクラウドサービス
GSuiteにしろRPAにしろ、「業務効率化」「働き方改革」という文脈で独り歩きしがちな面はあります。「何者かはよくわからないけど、とにかく導入してみよう」という話もあるのではないでしょうか。
これまでベンダーのフルサービスに慣らされた企業にとって、「自分で決める」「自分で考える」ことの難しさ、そしてそれに係る様々なコストに、逃げ出したり諦めたりしたくなるかもしれません。
しかしこの潮流は抗えないものであり、本当に逃げ出したり諦めてしまった企業は、逃げずに取り組んだ企業と大きな差を産むことになるでしょう。
自分で決められない、自分で考えられない企業は、これまで通り高い費用をシステムに投資し続けるしかありません。
自分で決められるようになった企業は、同じだけコストを掛けたとしても、システムに対してではなく人材に対して掛けることができるようになります。意思決定ができる人材を育てることは、次期経営層の育成に繋がり、企業の継続・発展を促します。
効率化時間をチマチマ図って「〇〇時間削減できました」を「業務効率化」と呼んでいいのはボトムアップの効率化だけです。トップダウンの効率化は未来を見据えた投資、すなわちキャリアパスの見通せる人材育成で社員のスキルを向上させることだと思います。
今日、明日の残業が減ることではなく、個々のスキルが向上することで業務が効率化され、業績が安定・向上し、次の人材を確保できるサイクルを回すことで継続的な負荷軽減・平準化を実現するプロセスを確立することが、トップダウンの「働き方改革」なのだと考えます。
人材を育てる材料としてだけでも、GSuiteをはじめとするクラウドサービスは、「これを使ってどうやって業務効率化が図れるか」を考える良い教材になるのではないでしょうか。
あとがき
結局、GSuiteはどう使えば効果が出るのか
今回の話は、これまでこのブログで紹介してきた「GSuite」「非機能要件」「情シス転職」の3テーマをひっくるめたような内容になりましたが、最後の着地点として「で、結局GSuiteって便利なの?」をまとめたいと思います。
・導入・立上げが早い。ユーザーのITスキルが高い企業・団体ほど早い。今後Googleサービスがより広がっていけばさらに早くなっていく余地がある。
・世の中のクラウドシフト、ユーザーシフトの流れの中で、一つの教材として捉えることもできる。そこにKPIを設定して、逆に自社のITスキルを測る指標にしてみることもできる。
・内部統制対策とワークフローが外部サービスである点。オールインワンで全てを網羅できない。だからすぐ始めたられて、すぐ辞められるというメリットもある。
・定型的な運用マニュアルは無い。基本ユーザーで全部考えないといけない。だから教育になるというメリットもある。
たかがグループウェアですが、Officeのようなデファクタスタンダードになれば、もはや誰もマニュアルなんて言い出さなくなるでしょう。
一般的なOfficeの使い方について、「マニュアルが無いからわからない」という人は流石にいないと思います。人に聞くなり、自分で調べるなり、本を買って勉強するなりします。
それと同じことがGSuiteでも起こるかもしれない、というかGoogleはそれを起こそうとしている、というのが正しいかもしれません。
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